〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第29章 《桃源郷物語》欠片-kakera-❀伊達政宗❀
「あ、政宗っ!」
突然足を早めた政宗を、美依は早足で追いかけた。
なんだろう、もやもやする。
自分が解らない、勝手に心が痛いとか。
こんなのは違う。
ただ面白くないだけだ。
『いつまで誤魔化すんですか、美依への気持ち』
何故か、家康に言われた言葉が―……
痛いくらいに頭の中に響いていた。
────…………
「ようこそいらっしゃいました、ゆっくりしていって下さいね」
桃源郷を訪れると、相変わらず色っぽくて怪しい女宿主が迎えてくれた。
寂れて佇む、古い宿。
しかし、その外観からは解らないくらい、中は小綺麗になっていて、割と好感が持てた。
「こんな所あったんだ……知らなかったなぁ」
美依は興味深々の様子で宿内を見ている。
これから、何があるかも知らずに。
すると、女宿主はおもむろにすっと美依に近づき……
小さな美依の手に何かを渡した。
「名物の万華鏡です、覗いてみませんか?」
(万華鏡…あれが……)
美依の手を垣間見る。
その万華鏡は、艶やかな朱に、金と黒で桜の模様が描かれており。
今までに見た事がない、何とも言えない異様な雰囲気を醸し出していた。
これが、噂の『忘却の万華鏡』
全て忘れる事が出来る……夢のようなシロモノ。
「これを見せたくて来たんだ、覗いてみろよ」
「う…うんっ……」
美依を促し、万華鏡を覗かせる。
素直な美依は何の疑いもなく万華鏡を覗き込み……
くるくると万華鏡を回しては『わぁ、綺麗!』と何回も何回も感嘆の声を上げた。
(これで、美依は全てを忘れる……)
これでいい。
これで、美依を自由に抱くことが出来る。
美依に快楽を与え、濡れる反応を確かめたい。
それが本来の目的だ。
それ以上もそれ以下もない。
覚えていようが、忘れようが、反応を確かめられれば、それでいい筈だ。
なのに──……
何故、こんなに心が、痛い?