〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第29章 《桃源郷物語》欠片-kakera-❀伊達政宗❀
「政宗さん、随分上機嫌ですね」
その時、呆れた様なため息と共に、家康に声を掛けられた。
向こうも同じ軍議帰り。
城の廊下を歩きながら、政宗は意味深に笑った。
「まぁ、ちょっとな。面白い事思いついちまって」
「政宗さんの目下の面白い事は、美依でしょう」
「なんだ、解るか」
「解りますよ、どうせ今日軍議に上がった宿にでも連れ込もうとか考えてるんじゃないですか?」
「へぇ……お前、なかなかに鋭いな」
本気で感心していると、家康はふぅとため息を付き。
眉間に皺を寄せて政宗に向き直った。
「止めた方がいいんじゃないですか、全てを忘れるなんて不毛でしょう」
「俺はいいと思うぞ、後々面倒くさくなくていい」
「例えば、こっちが覚えていて相手が忘れたら、辛くないですか」
「そう思うんなら、俺も忘れてやる。端から無かった事にすれば、簡単だろ?」
「……それ、本気じゃないですよね」
やけに家康が突っかかるので、政宗は少し苛立ちを覚え。
ぐいっと家康の胸ぐらを掴んだ。
そして、射抜くような青い瞳で見据え……
家康に真意を問いただす。
「さっきから何が言いたい、家康」
「政宗さんが解ってないからですよ」
「何が」
「自分の顔」
家康も家康でしっかりと政宗を見据え……
こう一言、政宗に告げた。
「忘れれば面倒くさくなくていいとか言ってる割に、すごい痛そうな顔してますよ。本音は忘れられたくないんでしょう。そうやって、いつまで誤魔化すんですか、美依への気持ち」
その時、二人の間に一陣の風が吹き抜けた。
まるで心の中を揺らすような、掻き乱す風が。
家康の言ってる意味が解らない。
痛そうな顔?
誤魔化す?
美依への気持ち?
訳の解らん事を言うのも、大概にしろ。
政宗は面倒くさそうに、家康の胸ぐらから手を離した。
そして、押し退けるように、その胸をとんっと突き放す。
「訳の解んねぇ事を抜かすな、気分悪い」
そのまま行ってしまった政宗の背中を、家康はそれこそ痛そうな瞳で見ていた。
アンタ、本当に馬鹿ですよね──……
そう、心の中で呟いて。