〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第28章 《桃源郷物語》華音-Kanon-❀豊臣秀吉❀
「美依っ……!」
二人の約束は、『俺だけ』の約束になり。
全て零へと巻き戻った。
美依は信長様と祝言を挙げ。
俺は忠臣。
昨夜の情事は、仮初めの一夜。
全てが夢、幻だったのだ。
でも───………
俺は、無かった事には出来ないから。
美依を愛した事。
美依も愛してくれた事。
駆け落ちて、一緒になる事を夢見た。
『逃げよう』と言ってくれた言葉も。
俺にとっては、
全て現実。
儚い現実。
秘密裏の……蜜な一時。
零れ落ちる涙は、美依への想い。
全て流して消してしまえ。
それで消えるものならば。
涙など、枯れてしまえ。
そして、祈る。
ひたすらに、祈る。
天下人と結ばれる、愛しい人の幸せを。
俺の手で幸せに出来なかった分。
幸せになれよ、と。
全て忘れていい、
お前の中から、消していい。
────だから。
『ずっとずっと、秀吉さんが好きだった』
(美依、ずっとずっと、幸せに──………)
────それから一年後
美依は信長との間に、小さな姫を産んだ。
黒髪でも、紅い瞳でもない。
明るい鳶色の髪と瞳を持った姫を。
信長はそれはそれは大事に育てたとか。
秀吉はと言うと。
何も口に出さず、ただ信長の側に仕え。
二度と美依に触れる事も無ければ、
名前を呼ぶこともなく。
『正室様』と美依を呼び……
天下統一を果たす時の立役者になったと言う話。
《桃源郷物語》華音 ― Kanon ― / 豊臣秀吉
終