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〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀

第28章 《桃源郷物語》華音-Kanon-❀豊臣秀吉❀





周りはすでに朝焼け。

何が起きたかはよく解らないが、夜が明けているという事は、もう信長と京へ旅立つ日である。




「早く帰らなきゃ、信長様心配してるよね。もう、秀吉さんはどこに行っちゃったんだか……京から帰ったら、きつく言わなくちゃ!」




近い祝言に思いを馳せながら……
いつもと変わらぬ花のような笑顔を浮かべ。
美依は己の道へと帰って行った。















「……秀吉様」




未だ呆けるように部屋に居ると、扉の向こうから声がかかった。

宿主の女だろう。
早く出ていけと催促をしに来たのだろうか。




「悪い、早く支度をする」

「いえ、ゆっくりで構いませんよ。これだけお伝えに来ました……美依様は全てをお忘れになりました。多分城へと帰ったのではないかと」

「…………そうか」




答えた声が震えた。
全てを忘れると、それは頭にあった筈なのに……
改めて他人から言われると、嫌でもそれを突き付けられた感覚に陥った。




「伝えに来てくれて、助かった」

「いえ……秀吉様」

「なんだ」








「貴方が全て望んだ事です、それをお忘れにならないよう……私は、手助けをしただけですから」








扉の向こうから、遠ざかる小さな足音が聞こえ、それが消えた時。

思わず、がくっと膝を下に付いた。
そして、両方のこぶしを付いて、うな垂れる。

瞳からはいつの間にか大きな雫が零れ落ち。
口から出た言葉は情けない羅列だった。








「そんな事は、言われなくても、解ってんだよ…!」








全て自分が望んだ現実だ。
美依への想いを断ち切るために。

たった一夜の情事を望んだ。

身体を一回でも繋げられれば、
綺麗に諦められると思った。

しかし──……
それが叶った今はどうだ。

想いが通じ合っているのに離れ。

逃げようとまで言ってくれた、美依は。
全てを忘れて、去って行った。

あの温かな肌も、濡れた身体も……
この身に残っている感触は、全て本当だったと言うのに。





『秀吉さんが、好き』





そう言ってくれたのは、ほんの数刻前。

その言葉は……
心を痛い程に掴んで、離さないと言うのに。






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