〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第28章 《桃源郷物語》華音-Kanon-❀豊臣秀吉❀
指定された突き当たりの部屋は、古びていても小綺麗になっていて、落ち着く雰囲気のある部屋だった。
箪笥や机、座布団が二枚。
壁には掛け軸。
机には茶が飲めるように準備がしてあって。
香が少し焚いてあるのか、微かに甘い香りがした。
「なんか雰囲気のある部屋だね、こんな宿があるの知らなかったなぁ」
先に部屋の中に足を踏み入れた美依が、中を見渡しながら呟く。
後ろ手で扉を閉めて、しっかり鍵を掛け……
もうここには、自分と美依、二人しかいない。
(やっと…美依を…………)
こんな時間は、もう死ぬまでない。
美依は主君の元へ嫁に行き、自分は忠臣。
本来ならば、こんな歯向かう事はあってはならないのだ。
でも、それ以上に狂った気持ちは加速していた。
それは抑えられない程に。
一回でも、この手で美依を抱きたい。
柔肌を感じ、命尽きる時まで宝物として、脳裏に刻みたい。
今宵、たった一夜だけだから。
(すみません、御館様。ごめん、美依──……)
「……っ! 秀吉、さん…………?」
後ろから腕を伸ばし、美依をきつく抱き締めると。
美依は慌てたように声を上げた。
そのまま片手で下ろされた艶やかな長い髪を、ゆるりと掻き寄せる。
露わになった白いうなじに口付けると、美依は小さく身体をぴくっと跳ねさせた。
「あっ…ちょっとっ……!」
「美依……」
「秀吉、さ……やめ…………っっ!」
細い首筋から匂う甘い匂いは、美依特有のものなのか。
まるで媚薬のように、脳天を突き抜け……
さらに感覚を鋭くさせ、もっとと貪りたくなる。
そのまま溢れる気持ちのまま、口を開けば。
ずっとずっと心に秘めて言えなかった言葉が、水が流れるように口を衝いて出た。