〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第28章 《桃源郷物語》華音-Kanon-❀豊臣秀吉❀
「わぁ……綺麗……っ!」
美依の小さな手の中で、小さな万華鏡が回る。
その世界に魅入られるように、美依は何度も感嘆の声を上げた。
こちらとしては、万華鏡の真意は気付かれないとはしても、気が気じゃないのは確かで。
(これで、本当に────…………)
全てを忘れてしまうと言う、その儚い現実。
自らが望んで回し始めた運命の歯車に、早くも後悔を覚えた。
しかし―……
止める事など、もう出来ないけれど。
「秀吉さんも見てみる?」
美依がひとしきり楽しんだ後、万華鏡をこちらに差し出してきた。
見たら、全てを忘れてしまう。
自分だけでも覚えていないと、全て『無かった事』になってしまうのだ。
それだけは……嫌だ。
「いや、俺はいい」
「そう、綺麗なのに」
「また気が向いたらな」
美依の頭をいつもの様に、くしゃりと撫でる。
こんな風に撫でるのも、今日限りにしよう。
そう思っていると、宿主である女が美依から万華鏡を受け取り……
代わりに古びた鍵を、こちらに手渡した。
「お部屋は一番突き当たりになります。何かありましたら、お呼び下さいね」
そして、妖しく微笑んだ後、目を伏せ……
まるでこれからを暗示するかのように、美依に言った。
「一時限りの蜜な時間をお過ごしください。貴女に幸があらんことを」
美依は目を丸くさせ、意味が解らないように首を傾げて『はい』と答えた。
その意味は解らなくていい。
これは自己満足の世界だから。
すんなり諦められれば、こんな手を使う事は無かったのだから──……
「美依、行くか」
美依を促し、部屋へと向かう。
女は憂いを帯びた眼差しで……
いつまでもその後姿を見送っていた。
────…………