〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第28章 《桃源郷物語》華音-Kanon-❀豊臣秀吉❀
だが。
その禁忌を犯せば、美依とは結ばれるのだ。
そう……たった一夜だけ。
この腕に抱きたいと。
いつも心に抱き続けていた。
もしかしたら、いつか想いは届くかもしれない。
そんな淡い期待も、何処かにあったのか。
しかし、美依は主君と祝言を挙げる。
本当の意味で、もう美依を諦めなければいけない。
だったら──……
踏ん切りをつけるなら、方法は。
────たった、ひとつだ
秀吉はゆらりと立ち上がると、そのまま城下へと足を向けた。
『桃源郷』に宿泊の予約を取るために。
心の中で、何度も何度も何度も。
(美依、醜い俺を許してくれ)
美依に許しを乞いながら。
だだ、持て余した激情に身を委ねた。
────…………
「秀吉さん、どこに行くの?」
「うん、ちょっとな。ついてきてくれ」
信長と美依が京に立つ前夜。
秀吉は美依を呼び出し、城下の外れへ足を向けていた。
本当は手を引き、市などを連れ回して最後の一時を楽しみたかった。
しかし──……
これから宿であろう事を思うと、美依に無理はさせたくなかった。
最後で、たった一回の機会なら……
決して後悔はしたくないと言う、身勝手で我が儘な理由からだった。
「……美依」
「なぁに?」
「俺は馬鹿なんだ、だから…こうするしか無かった事だけ、解ってくれ」
横を歩く秀吉が何か苦しげにそう言ったので、美依は少しびっくりしてその顔を見上げた。
言ってる意味が解らなかった。
しかし……
秀吉がとても苦しそうだったので、頷くしかなく。
「よく解らないけど、解った」
そう答えると、秀吉は少し安堵したような息を漏らし……
美依の小さな頭をくしゃりと撫でた。