〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第28章 《桃源郷物語》華音-Kanon-❀豊臣秀吉❀
「おっと……」
秀吉は素早く動いて、風に寄って地面へと舞った薄桃色の羽織りを拾い上げた。
すると、こちらの姿に気がついた美依が小走りで掛けてきたので、手にした羽織りの土を払う。
そして優しく微笑んで美依に手渡した。
「大丈夫か、風には気をつけろよ?」
「ごめんね、秀吉さん。いつからそこに居たの?」
「うん……まぁ気にするな」
思わず言葉を濁した秀吉に、美依は不思議がりながらも……
花のような可憐な笑みを浮かべた。
「秀吉さん、拾ってくれてありがとう」
(…………っ!)
そのあまりに可愛らしい笑みに、思わず手が伸びて頭を撫でていた。
柔らかい髪が指に絡まる度に、心が疼く。
苦しい程に、掻き乱される。
何故……信長よりも早く出逢えなかったのか。
出逢えていたとしたら、きっと。
(コイツの隣は、俺であったのに)
「秀吉」
何かを制止するような信長の声にハッとなる。
秀吉は頭を撫でていたその手を急いで離し、信長に恭しく向き直った。
「も、申し訳ありません」
「丁度よい所に居た、貴様に話がある」
信長は美依に触れた事には大して気にも止めず、秀吉へと話を振った。
「三日後、安土を立つ。しばし京へと赴く故に、留守を頼みたい」
「畏まりました、随分急な出発ですね」
「美依には前々から話していたのだが……」
信長はふっと微笑み、美依の頭を撫でながら……
秀吉にとって、美依への恋慕を無理やり断ち切らせるような。
そんな一言を放った。
「美依と、京で祝言を挙げる。他言はするな」