〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第28章 《桃源郷物語》華音-Kanon-❀豊臣秀吉❀
この身は、主君信長様に捧げた。
その為に命を落とすなら、本望だ。
なのに……
何故上手く行かないのだろう。
お前を一目見たその時から。
狂おしいほどに惹かれていた。
それが、命より大切な信長様の寵愛する女でも。
それでも、止められない、この気持ち。
報われる事なんて、
今世では無いと、思っていたのに──……
「信長様、違います。こうですよ」
「こうか?案外難しいものだな」
「ふふっ、信長様は器用な筈なのに」
信長と美依が中庭で何やら談笑している。
その仲睦まじい様子を見ながら、秀吉は小さくため息をついた。
(仲が良いな、相変わらず……)
美依がころころと花のように笑い、それを見てまた笑む信長。
それは最近、安土城ではよく見られる光景だ。
美依が城に来てから……
安土城の中は、がらりと変わった。
第六天魔王、冷酷非情と恐れられる信長が、穏やかな顔をするようになったのが一番の変化だ。
美依を見る時の穏やかで優しい瞳。
それは美依を心から愛しているのだと……
愛する者が出来るだけで、ここまで変わるかと言うくらい。
(なんだろう、俺としては喜ばしい事ではあるけど)
信長に人間見が出てきたと言う点で、密かに安心する面があるのは確かで。
信長の気高い心はいつも危うかった。
それは、一番近くで見ている自分が、一番強く感じていた事で……
いつか、脆く崩れるのではないかと。
美依のおかげで、それは杞憂で終わったが。
そのくらい信長に取って、美依の存在は大きい。
────しかし
それは、自分自身にとっても。
「あっ……」
その時、突風が吹いて、美依の肩に掛けられていた羽織りが、風を含んで舞い上がった。