〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第27章 《桃源郷物語》序章〜動き出した刹那〜
「まぁ良い。話を聞く分には、そう害は無さそうだ。怪しい事には変わらぬがな」
「では、特に立ち退きなどの処置は取らないと」
「そうだな、必要ないだろう。しかし……愉快な事だな」
信長はまるでこの先を想像するように、紅い目を細め……
艶のある声色で言った。
「秘密裏の情事など、こんなに面白い事はあるまい。男と女が情を交わすのに理由は要らない、ただ身体が渇くから潤すだけだ。それを禁忌とするならば、その宿は楽園となるのだろう。貴様らも…秘密に情を交わしたい存在が居るのではないか?だったら、その楽園に足を運び、狂うまで溺れるがいい、情欲にな」
その言葉に───………
答える者はいなかった。
ただ、
全員が全員、心に浮かんだのは愛しい者の顔。
(美依…………)
想いは今世では叶わぬと、
無理やり押し殺していた激情。
それが叶うのは、今なのか。
安土城に集まった武将はそれぞれに考えを巡らせ。
その日の会議は解散した。
「おい、光秀」
わらわらと広間から武将が解散していく中、秀吉は光秀に声を掛けた。
呼び止められ、光秀は面倒くさそうに振り返る。
すると案の定、秀吉はその鳶色の瞳で、何か言いたげに光秀を見ていた。
「……なんだ」
「お前、本当に宿に偵察に行ったんだろうな?」
「どう言う意味だ」
「……ここ、痕付いてるぞ」
秀吉が言いにくそうに、光秀の首筋を指でとんとんと叩くように触れた。
光秀は反射的に触れられた所を手で覆い隠す。
そして考えを巡らせ……
にやりと笑って秀吉を見た。
「ああ、悪い。虫にでも刺されたようだ」
「どう見ても誰かに噛まれた痕だろ……だからお前は信用ならない」
「俺は知らん、自分で気がついていたら、とっくに処置している。だからこれは、虫刺されだ」
「それもそうだな、そういうのにお前が気づかない訳が無い」
秀吉は訝しがりながらも……
どこか光秀を信用しているかのように、大きくため息をついて去っていった。