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〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀

第27章 《桃源郷物語》序章〜動き出した刹那〜




宿の中は、外観同様古びていたが、小綺麗にはなっていた。

宿と言っても、たった二部屋しかない。
それぞれ趣が異なる雰囲気の二部屋に、風呂が一つ。

入り口には受付をする所があり、あとは宿主が生活する為の部屋が一つ。

至って、なんの変哲も無く、少し狭いだけの普通の宿。
怪しい事には違いないが。

宿主も何も隠す様子はないし……
何故、これで『秘密裏』などと言えるのだろう。


光秀は宿内を一周し、招かれた宿主の部屋で、女と対峙しながら、いきなり本題に入った。




「立て看板の内容について聞きたい、この宿の趣旨は一体なんだ」

「あらあら、直球ですわね。別に隠し立てはしません、看板の内容の通りです」

「秘密裏の情事を承る、と書いてあったが」

「そのままです、このお宿は世間では表に出せない想いを叶える場所。秘めたる情事を交わすお宿です」

「こんなに公にして、秘密も糞もあるか」





女はくすくすと笑い、腹の見えない表情で言う。





「それが大丈夫なんですのよ。必ず秘密は守られます」

「その根拠は」

「うーん、あまり知られたくないのですが、仕方ありませんわね。隠して追い出されても困りますし」






すると女は一回立ち上がり、棚から何かを取り出すと、光秀の目の前に差し出した。

それは小さな万華鏡だった。
艶やかな朱に、金と黒で桜の模様が描かれた……
今までに見た事がない、異様な雰囲気を醸し出している。




「……これは?」

「忘却の万華鏡と言います、この宿の要となる万華鏡です」

「忘却の万華鏡……?」

「はい、この万華鏡を覗いた者は、この宿での記憶を一切失います。だから……秘密は守られるのですよ」




(は……?)




思わず、光秀は絶句した。
そんな都合のよい事があるものか。

押し黙っていると、女は更に言葉を続ける。




「このお宿にお泊まり頂いたお客様には、必ずこの万華鏡を覗いて頂きます。すると、覗いた瞬間から、宿を出るまでの記憶が……宿を出た瞬間に全て失われる。どんなに愛を囁こうが秘密の約束をしようが、一切覚えている事はありません」




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