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〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀

第27章 《桃源郷物語》序章〜動き出した刹那〜





(……確かに胡散臭い建物だな)



光秀はその宿の前で、眉に皺を寄せて佇んだ。

信長からの命が下ったのは今朝の事。
城下の外れに胡散臭い宿が出来た。
どんなものか、確かめてこい、と。

こういう面倒くさい仕事は、自分に打って付けだ。

信長の右腕である秀吉には不向き。
何故なら、あれは頭が硬すぎる。

それに秀吉と自分は、謂わば光と闇。
あれは光の当たる仕事を真っ当にこなせばいい。



(とりあえず、宿主を訪ねるか……)



表の立て看板を見て、一人唸る。

内容は意味不明としか言えない。
秘密裏の情事も何も、こんなにおおっぴらに書いてしまったら、秘密など守れる訳が無い。

既に宿の噂は城下中に知れ渡っている。
だからこうして確かめに来たわけで……




「あら……お客様ですか?」




その時だった。
立て看板の前で佇んでいると、突然後ろから声を掛けられた。

瞬時に振り向き、反射的に刀の柄に手が掛かる。

振り向いた先には、一人の女が居た。
着物ではなく、足の先まで隠れる黒い異国の服に身を包み、艶やかに波打つ髪が風に靡く。

陶器の様に白く、透き通るような肌。
唇は紅く、綺麗に紅が塗られていて……

全てを射抜くような、鈍色の大きな瞳が、くりくりと動いていた。




「私のお宿に、御用ですか?」



鈴を転がすような声にハッとなる。
なんだろう、誰かに似ている気がする。

そうは思ったが、光秀はとりあえずそれは置いておいて、刀に手を掛けたまま女に尋ねた。



「お前が……この宿の宿主か」

「はい、ご予約でしょうか」

「客じゃない。安土城主信長様の命にて、この宿を検めさせてもらう」

「あらあら…それは失礼致しました。お入りになって」



女はくすりと笑い、特に怯える様子も無く、光秀を中に招き入れた。

胡散臭さ極まりない。
そう思いながらも、光秀は女の後に続き、宿へと足を踏み入れた。





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