〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第3章 華火と微熱と光秀さん《前編》❀明智光秀❀
「なんだお前、具合が悪そうだな」
光秀さんがいつものように店に入ってきて。
顔を合わせた瞬間、発した第一声がそれだった。
平然を装ったのに、すぐに見抜かれてしまい。
それでも強がって、顔の前で手をぱたぱた振り、無理やり笑顔を作って見せた。
「何言ってるんですか、大丈夫ですよ」
「大丈夫と言う顔ではないだろう、顔色は良くないし目は赤いし、それに……」
「……っっ」
ふわりと額に手を当てられる。
骨ばったその手は心地よく、指先のひんやりした感触で、熱で過敏になってる肌がゾクッと粟立った。
「熱もある、だいぶ熱いじゃないか。今すぐ休め」
「平気ですっ、今お店がすごく忙しいから、迷惑かけられないです」
「平気なものか、倒れたらもっと迷惑がかかるだろう、休め」
「大丈夫ったら大丈夫なんです、休んでいられません。葛まんじゅうですよね、席に座って待っていてください!」
半ば強引に手を振り払い、葛まんじゅうの用意しに行く。
なんだろう、あのまま触れられていたら、気を許して倒れてしまいそうだった。
そんなのは駄目だ、迷惑をかけてしまう。
店にも、光秀さんにも。
大丈夫、まだ頑張れる。
そう自分に言い聞かせて、盆に葛まんじゅうを乗せて運ぶ。
厨房から店内に戻ると、光秀さんはいつもの席に座っていた。
「光秀さん、お待たせしまし……た…………」
(あれ……?)
光秀さんの席に甘味を運んだ途端。
突然、目の前の景色が、ぐにゃりと歪んだ。
天井と床が反転し、ぐるぐると回り始め……
そして、足ががくがくと震えだし。
底が抜けていくような感覚を覚える。
───これ、まずい
本能的に直感した、直後。
視界が真っ暗になり、そこでぷっつりと意識が途絶えた。
その後、自分がどうなったのかは、よく解らない。
でも……
最後に見たもの。
それは、自分を見て、心配そうな顔をする光秀さんだった。
そして、意識を失う寸前、聞いた声は。
『美依っ…………!』
今まで聞いたことがない。
取り乱したような、慌てたような。
そんな、光秀さんの声だった。
────…………