〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第3章 華火と微熱と光秀さん《前編》❀明智光秀❀
────光秀さんは
葛まんじゅうを食べ終わり、帰る時。
必ず頭を優しく撫でる。
まるで、愛しいものに触れるように……
大きな手が、優しく頭を撫で。
そして、その骨ばった指で、髪を梳く。
その手は優しく、包むように、温かく……
私はどきどきして。
撫でられるたび、いつもどきどきして。
何故か、その別れ際の瞬間が、不本意に楽しみになっていた。
そして───…………
『美依』
光秀さんが、私の名前を呼ぶたびに。
いつも心が浮ついた。
光秀さんの声。
低く甘く、囁くような、私を掻き乱す声。
それは何かの呪文みたいに、私を落ち着かなくさせる。
もっと、名前を呼んで欲しい。
馬鹿みたいに、心が叫ぶ。
「ほんっと……私、何考えてるんだろ。相手は光秀さんなのに」
その時、私は自分の気持ちに知らないフリをし。
見て見ぬ振りを決め込んでいた。
名前など付けようがない、そんな想い。
単に、いつもからかわれているだけだと……
そう言い聞かせて、気持ちに蓋をした。
しかし──…………
思いがけない『事件』が起きたことで。
私はその気持ちの正体を知ることになる。
彼の意外な一面に。
驚くほど激しく、加速して行くのだ。
────…………
(……やっぱり、なんか具合悪いな)
額に手を当て、ふうっとため息を付く。
その日、私は己の体調の悪さに、何度もため息を付きながら店に立っていた。
昨日の夜辺りから、体調がすこぶる悪い。
頭はガンガンするし、気持ち悪いし。
身体は火照って、フラフラするし。
風邪でも引いたか、明らかに熱が高いようだった。
(でも、休んだら迷惑かけちゃう)
最近、茶屋は何故かすごく忙しい。
今自分が休んでしまったら、迷惑をかけてしまう。
それに、手伝うと決めた以上、それをしっかり責任持ってこなしたかった。
だから、休んでなんて、いられない。
体調不良を見て見ぬ振りをし、そのまま店に立ち続け……
いつの間にか昼が過ぎ。
いつもの光秀さんが葛まんじゅうを食べにやってくる時間になっていた。