〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第23章 カンタレラに久遠の蜜謳を《前編》❀上杉謙信❀
「なに、これっ……くしゅっ!」
寒気がして、小さくくしゃみが出る。
気がつけば、着物は剥がされ、襦袢一枚だった。
ぐっと力を入れれば、鉄の手枷は手首に食い込み……
痛いと思っても、外れる気配は微塵もない。
何故、こんな姿で牢屋に繋がれているのか。
確か幸村や信玄達と酒を酌み交わしていて。
その後、謙信が不機嫌に身体を抱き上げたのを覚えている。
『お前は純白の悪魔か』
確か、そう言って、その後───………
「────目が覚めたか、美依」
混乱している最中。
よく通る冷ややかな声を浴びせられ、美依は反射的に牢屋の外に目を向けた。
ゆっくり近づいてくる人影は……
薄蒼の着物に、白の羽織。
薄い琥珀色の髪を携え、左右違う色彩の瞳は、射抜くような真っ直ぐな鋭さを持っていた。
────軍神、上杉謙信
美依が思わず柵を掴み、牢の中から謙信を見つめると。
謙信は牢の前にすっと膝を折って座り、その繋がれた手をそっと握って指先に唇を押し当ててきた。
「……っっ」
「だいぶ冷たくなってしまっているな、寒いだろう」
「謙信、様……」
「だが安心しろ、今すぐ温めてやる…俺の熱で」
そう言って、優しく微笑む。
しかし──……
瞳は笑ってはいなかった。
虚無の瞳。
まるで感情なんて無さそうなのに、その奥には何故か歪んだ熱が込められている気がして……
その凄みを帯びた瞳に、囚われて動けなくなる。
すると、謙信はそのまま立ち上がり、躊躇いもなく牢の鍵を開けて中に入ってきた。
その『当たり前』のような行動。
全て解ったような口調。
まさか────…………
「ま、まさか…謙信様が、こんな事を……?」
「だったらどうした、不満か」
「……当たり前ですっ、今すぐ手枷を外してください!なんで…なんでこんな事するんですか……?!」
さも当然と言った口調に、思わず声を荒らげる。
すると、謙信は美依の身体を柵に閉じ込めるように、囲うようにして手を付いてきた。
片手は手枷の上から美依の手首を握り。
もう片手でも柵を握ると、その腕の中にある顔を覗き込むようにして、視線を絡ませる。