第22章 艶熱蝶々－視線の鎖－ ❀明智光秀❀

「なんだ、光秀来てたのか。美依、飯だぞ」




政宗が小さな土鍋を盆に乗せて運んでくる。

美依の褥を挟み、俺の向かい側に座ると。
盆を置き、鍋つかみで蓋を持って開けた。

途端にほこほこと上がる湯気。

中には熱そうなうどんが入っていて……
政宗は箸で、小碗に麺と汁を盛ると、美依の手を取り小碗を持たせた。




「わぁ…煮込みうどんだ」

「熱いから気をつけろよ、なんなら俺が食わせてやろうか？」

「そんなに重病人じゃないよ、大丈夫。でも、ありがとう、政宗」




俺と政宗が見守る中、美依はふぅふぅと熱そうに麺を冷まして、箸で口に運んだ。

一口含み、飲み込み終わると、美依はほっこりした笑顔になって……




「美味しい、ありがとう……！」




と、可愛らしいお礼を政宗に言った。

その何とも言えない愛らしさ。
野原に小さな花が咲いたような、そんな心安らぐような笑み。

そんな笑顔は、俺はあまり見たことが無い。

からかったり意地悪したりして、膨れっ面にさせる事はあっても……




(煮込みうどんが、そんなに嬉しいのか？)




ものすごく腹が減っていたとか。
美味しいから、楽しみにしていた…が、正解か。

でも、政宗が来る時間を見計らって起き出したくらいだ。

あの待っていた様子を見ると……
余程、政宗の昼餉を楽しみにしていたのだ。






(────なんだ、これは)






その時。
胸の奥底が軋んで、チクリと傷んだ。

俺だって美依の元を訪れているのに。

こんな笑顔は向けられなかった。
確かに見舞いの品も、何も無かったけれど。


これはやっぱり……昼餉の力か。




「政宗、少しいいか」




俺はある『思いつき』が心に過ぎり、政宗に声を掛けた。

優しい眼差しで美依を見ていた政宗。
その声でこちらに気が付き、首を傾げて見てくる。




「ん、なんだ？」

「少し顔を貸せ」

「今か？美依が飯を食ってるんだが」

「出来れば今がいい。美依が食い終わったら、お前はさっさと帰るのだろう？」




すると、政宗はやれやれと言った感じで、昼餉を食べる美依の頭をぽんと撫で。

そして、すっとその腰を上げた。