〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第20章 猫さんと曇天の銀杏の木 ❀ 石田三成 ❀
「おい、大丈夫か?!」
秀吉様がこちらに駆け寄り、心配そうな声を上げる。
私は美依様の下敷きになりながら……
それでもしっかり美依様を抱え、返事を返した。
「ええ、大丈夫ですよ」
私達がどうなったかと言うと。
美依様が滑り落ち、私は腕を広げて下で待ち構え。
そして、上手く受け止める事は出来たものの、あまりの衝撃に、美依様を抱えたまま尻もちをついていた。
美依様は私の膝の上で目を白黒させ……
やがて、私に気がつくと酷くびっくりしたような声を出した。
「み、三成君っ……!」
「大丈夫ですか、お怪我はありませんか?」
「だ、大丈夫…三成君こそ、怪我は?」
「平気です、全く…あまり心配させないでください」
「にゃー」
すると美依様の腕の中の猫さんが、場違いなほど穏やかな鳴き声を上げた。
安心したように美依様の胸に擦り寄り……
目を細めて、ゴロゴロと言い出す。
木の上で震えて居たのが、嘘のようだ。
そんな姿を見ていたら急に可笑しくなり。
美依様と目を合わせ、思わず笑ってしまった。
「こっちの気も知らないで……」
「本当に、人騒がせな猫さんです。でも……」
「でも?」
「居て良かった、探しても居ない時は不安で…事故にでも遭ったのではないかと」
「三成君……」
探していて思った。
何故、呼ぶ名前くらい付けてあげなかったのか。
このまま猫さんが居なかったら、どうしようとか。
知らず知らずのうちに、私の生活に入り込んでいた猫さんは……
すでに、私に欠かせなくなっていたんですね。
そう改めて認識し、思わず苦笑する。
今度こそ、ちゃんと名前を付けてあげよう。
『猫さん』は『猫さん』だけれど。
それでも……名前で呼んであげたいな。
ふと、そんな風に思った。
「大丈夫か、二人とも立てるか?」
秀吉様に促され、美依様を抱えたまま立ち上がる。
雨に濡れて、すっかり冷たくなっているな。
そう思い、その露を含んでしっとりとしてしまった美依様の前髪を掻き上げる。
湯殿に直行するか。
私は改めて美依様を横抱きにし、そして秀吉様にさらりと告げた。