〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第19章 桃色微熱 -戯れと煽る蜜- ❀豊臣秀吉❀
「美依……居るか?」
美依の部屋に行き、襖の外から声を掛ける。
訪れるのは本当に久しぶりで、変に緊張するが……
でも、美依に会えると言うだけで、馬鹿みたいに心が浮ついた。
なんて言って謝ろうか。
やはり、嫉妬した事実を話して謝るべきか。
本当は休みに部屋を借りに来たのに、謝る事ばかり頭の中でぐるぐる回る。
だが……
「……居ないのか?」
何度声を掛けても返事がない。
勝手に開けるのを躊躇ったが、三成の手前上、そうも言ってられないし……
そう思い、少し遠慮がちに襖を開けた。
しかし、中に美依の姿は無く……
何かがやりっぱなしと言う感じも無いので、少し部屋を開けただけという訳ではなさそうだ。
多分、どこかに出掛けているのだろう。
(……久しぶりだな、美依の部屋)
きちんと整頓された、女らしい部屋に足を踏み入れ、思わず周りを見渡す。
衣桁に掛けられた、薄桃色の着物。
文机には、きちんと本が重ねられ。
その脇には、兎と桜が掘られた木製の裁縫箱。
これは、恋仲になった時。
俺が美依に贈った物だ。
『美依がここで生活している』と言う実感が、改めてふつふつと沸いてきて……
すうっと息を吸い込むと、美依の匂いがふんわりとここに残って、香っている気がした。
(美依……)
引き寄せられるように、衣桁に掛かっている着物に触れる。
それは、美依がいつも着ている着物。
確か『お前が好きだ』と美依に告白した時も、これを着ていた。
美依を感じたくて、思わず着物を顔に当てる。
すると、着物からはふわんっ…と美依の甘い匂いが漂い、鼻の中を抜けた。
「……っっ!」
久しぶりに感じた『美依』に、思わず心臓がどくんと高鳴る。
優しい、甘い匂いの美依。
美依は温かく、柔らかくて……
それは、必ず己を高ぶらせる。
着物一つでそれを感じる俺は、馬鹿みたいに美依に溺れていると。
そう思っても、十日ぶりに触れる温もり。
それは美依そのもののような感じがして、身体がじんと熱くなった。