〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第2章 蜜毒パラドックス《後編》❀豊臣秀吉❀
「光秀、笑い事じゃねぇ」
「そのようだな、美依は完璧にお前を嫌っただろうなぁ。まぁ、嘘つきとは間違ってはいないし」
「お前楽しんでるだろ」
「まぁな」
「もう修復不可能だ……」
「そんな事も無いぞ、秀吉」
意地悪く見つめる淡色の瞳を、思わず睨み返す。
その視線の意味を感じ取ったか、光秀は腕を組み……
相変わらずの笑みを浮かべたまま言葉を続けた。
「何か変だと思わないか」
「は?」
「俺が『ここ』で大名を捕まえてから、美依が駆け出してくるまで、ほんの僅かな時間しか経っていない。では、何故捕まえた筈の大名がここに居ない?こんな短時間で連れていくのは、どう考えても無理だろう」
「……言われてみれば」
部屋の中から影を確認した時、それが一つだった事を思い出す。
すると、光秀は少し切なげに目を細め……
その『真実』を口から語った。
────…………
(美依は、どこへ行ったんだ……?)
己の乱れた着物を直しながら、美依の後を追う。
あんな格好だし、城からは出ていない筈だ。
なら、部屋か……
光秀は、本当に馬鹿だ。
あのまま『策』を遂行していれば、今頃きっと……
『大名を捕まえてないだと!?』
『正確に言えば、この部屋の前では捕まえていない。大名を捕らえたのは、反対の突き当たりの部屋。つまり広間から見て、右端の突き当たりがお前達の居た部屋、捕まえたのは左端の突き当たりの部屋だ』
『じゃあ、俺達の声は……』
『ああ、大名には聞かれてはいない』
『じゃあ、なんで部屋の前であんな事を言ったんだ』
『美依をかっさらうには絶好だと思ってな』
『はぁ?』
『美依にお前と行為をさせたのは、あいつの片想いへの餞別だった。美依の気持ちはとっくに知っていたから、それで諦めさせるつもりだった。だから策だと思わせ、傷ついた所を癒して、そのままかっさらう予定でいたが……美依のあんな傷ついた顔は、正直俺も堪(こた)えた』
『光秀……』
『解らないか、美依を譲ってやると言っているんだ。さっさと追いかけろ、まだ間に合う。俺は美依が笑えばそれでいい』