〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第17章 櫻花に夢見し君想ふ ❀織田信長❀
「遷宮と言う伝統的な行事は、乱世になって百年近くも途絶えてしまっていたらしい。国土は荒廃し、神宮の存続が危ぶまれ…それは人の心まで荒廃させ、荒むに荒む原因になっていた」
「……」
「しかし、遷宮を復興させるには、莫大な費用が掛かる。それを民から絞り取れば余計に貧窮は進む。なら、ある所から出せばいい」
「でもっ……」
「俺はな、美依。闇雲に寺などを弾圧している訳ではない。政治権力を振るう一部を除き、それ以外の寺や宮は…民の心の拠り所で、宗教を信じるのも自由だ。それまで潰す事はしない」
────乱世と言う、厳しい寒さの『冬』
そんな時を生きる人々は、心の拠り所に温かさを感じ、前を向こうとするのだろう。
寒さに耐え咲き、その姿で人の心を温める『寒桜』は、まさに拠り所だ。
なら『寒桜』は咲かせねばならない。
荒れ果て咲かないのは、人々を不安にさせる。
荒んだ心をまとめ上げるには……
『遷宮の再興』はとても有効的で、きっと『寒桜』の役目を果たすと。
そう思ったからこそ……力を貸した。
「────理解したか、美依」
ひと通り話し終え、改めて美依を見ると。
美依はまるで、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていて。
長い睫毛でぱちぱちと瞬きをしながら、それでも何とか絞り出すと言ったように言葉を紡ぎ始めた。
「信長様は…やっぱり凄いです」
「は?」
「私の考える事を遥かに超えてます。それは当たり前なんだけど……でも」
「でも?」
「信長様は一回、私は難しいからと説明を避けましたよね?なんで今は説明してくれたんですか?」
(……何故、そんな不安そうな瞳をする)
視線だけではなく、身体ごと美依の方に向き直り。
そして、肩に手を置き、顔を覗き込む。
不安に揺れる、黒曜石の瞳。
解らない、それでも必死に理解しようと…
美依は健気に寄り添おうとしてくれているのだ。
(今まで、俺の傍にこのような女は居なかった)
美依は……
解らない事を、解らないままにしようとしない。
この魔王と言われたこの身を、必死に、懸命に。
愚かなほど純粋に受け止めようと……
そんな女だから。
これ程までに惹かれ、離せなくなるのだ。