〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第17章 櫻花に夢見し君想ふ ❀織田信長❀
「どうした、表情が晴れんな、美依」
「え?」
「疲れたか、だいぶ走ったからな」
「いえ…大丈夫です」
「……出先に、秀吉から何か言われたか?」
そう尋ねた途端、美依の身体がぴくりと震えた。
こちらにしっかりしがみつき、馬上から降ろされながらも、美依は俯いて視線を上げない。
美依の両足が地に付いた所で顎を掬い、ぐっと上に向かせる。
少し潤んだ瞳、何かを迷ったような……
そんな曇りのある瞳に少し驚き、思わず息を呑んだ。
「美依……?」
「あのっ…私、ごめんなさい……」
「……何を謝る?」
「出来の悪い妻で、ごめんなさい、信長様っ…!」
「いきなり何を言う、理由を話せ」
「出先に秀吉さんに聞いたんです、ここの神社の復興をお手伝いした話」
すると、美依はぽつりぽつりと話し始めた。
一定期間で全ての社殿を造りなおす、遷宮という独特の行事。
それは莫大な資金が掛かり、人々が資金集めに併走していた所に視察に行った己が出くわし……
乱世に資金集めは困難だと判断して、彼らの要請に応えた事。
彼らが願い出た金額は決して少ないものでは無かった。
しかし、その嘆願された三倍の金額を寄付した事。
その真意が解らないと……
そう美依は迷いのある眼差しを向けた。
「寄付に反対とかじゃないんです。信長様が寛大なのは知っているし、きっと神社の方も喜んでいるはずだし。でも……」
「でも?」
「信長様は…お寺を弾圧してきたりしてきましたよね。顕如さんとの争いも、それが元でしょう?なのに、何故ここは助けたんですか?」
「……秀吉は何と申していた」
「美依には解る筈だと、教えてくれませんでした」
「それで貴様は悩んでいたのか、俺の真意が解らんと」
悲しそうに、こくりと頷く美依。
そして続けて言った。
誰よりも傍にいる筈なのに、解らない事が多すぎて、私は信長様に相応しくないのではないかと。
もっと理解し、賢くなりたい。
美依はうっすらと涙を浮かべる。
それは呆れるくらい純粋で、透明な雫。
美依の素直さの塊のような……
そんな気さえした。