〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第14章 胡蝶ノ蜜夢《前編》❀家康 × 三成❀
そう言われ、秀吉はその紙に目を通す。
隣にいた政宗も一緒になって、その説明書きを読んでいたが。
やがて、二人は目を見開き…
唖然とした様子で呟いた。
「特定の雄に存在を知らせ、交尾に至らしめる、蚕蛾の成分が入った香だと……!?」
思わず顔を見合わせる秀吉と政宗。
それを見ながら、光秀はため息をつき……
怪訝な表情で腕を組んだ。
「より効率的に子孫を残すために、雌が雄に、自分は交尾が出来るから寄ってこいと、発する匂いの成分…それがこの香の原料になっているらしい」
「随分危ない成分だな……」
「秀吉、危険なのは成分だけじゃない。そこに書いてある通り、香自体には殆ど毒性がなく、無味無臭で、特定の相手にしか効かない…ただ付けただけでは、美依自身ですら、その匂いを発している自覚がない」
「それってかなりまずくないか…?」
「まずいに決まっているだろう、政宗。しかも美依は、その香を持ったまま、家康と三成の御殿に向かった」
光秀は形の良い眉をひそめ……
さらに『まずい状況』を言い放つ。
「匂いの効く『特定の相手』が判断出来ない以上、今美依が男との接触はかなり危ない。書いてあるだろう、その匂いに反応した相手は、堪えきれなくなるほど欲情すると。もしすでに、美依が香を付けてしまっていたとしたら?そして、それに家康や三成が反応したとしたら?」
ごくり、と秀吉と政宗が唾を飲み込む。
特定の相手を交尾に誘い込む匂いを放つ。
匂いに反応した相手は、堪えきれず欲情する。
『特定の相手』が解らないのなら……
家康や三成が反応する可能性だって、十分にある。
「三人を探せという命令は、それが理由だったんですね、信長様」
「俺も迂闊だった、よく確かめもせず美依に、本を届ける駄賃としてくれてやった物だったからな」
秀吉に言われ、信長は眉をひそめて少し後悔したように呟いた。
届けられた献上品に、まさかこんな危険な物が紛れているとは。
しかし……
起こった事を後悔しても仕方ない。
なら、被害が拡大しないように、くい止めるまでだ。
「秀吉、光秀、政宗。三人を探せ」
信長が羽織を翻して告げる。
最悪の事態も想定して、重々しく口を開く。