〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第14章 胡蝶ノ蜜夢《前編》❀家康 × 三成❀
(この匂い………!)
それをモロに嗅いでしまい、反射的に鼻と口を手で押さえる。
しかし、遅かった。
吸い込んだ香りは、まるで毒のように身体に浸透し…
そして、思考回路を奪う。
脳髄まで侵されるように、クラクラと麻痺し始め。
そして、心から剥がれ落ちる感覚。
理性と言う名の壁が。
いとも簡単に。
ガラガラと音を立てて崩れ始める。
「家康……?」
美依が腕の中で、心配そうに声を出したのが聞こえた。
だが───………
醜い『雄』の自分が、中から見え隠れし。
息をするのすら、難しくなってくる。
まるで、中で眠っている本能を起こすような。
甘い香りに刺激され、芯がゾクッと疼き。
蜜に囚われる、蝶が如く。
美依に囚われ、動けなくなる。
そして、思う。
────美依が、欲しい
止まらない。
一気に堰を切った思いが。
己を侵食し……喰い尽くす。
「美依……」
「家康……?」
「美依、ごめんっ……!」
「いえや…………!」
刹那。
奪った美依の唇は、甘く蕩けて、そして。
間近で揺れる瞳から、涙がぽろっと零れ落ちた。
────…………
「まだ美依は見つからないのか」
安土天主。
信長が苦虫を噛み潰したような、苦い口調で言った。
それを側で聞いていた光秀、秀吉、政宗の三人は顔を見合わせ…
光秀が少し落胆した様子で口を開く。
「見つかりません。美依だけではなく、三成も家康も」
「一番最悪の事態になったな、光秀」
「まだ解りませんが…可能性は十分にあります」
「光秀、さっき話に出た、美依が持って行ったその香は…そんなにまずいシロモノなのか」
秀吉が、心配そうに光秀に問いただすと。
光秀が紙を一枚、懐から出して、それを秀吉に見せた。
「それは、香と一緒に入っていたと思われる説明書きだ。信長様が、美依が香を木箱から持って行った後、中に入っていたのを発見した。読んでみるがいい」