〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第14章 胡蝶ノ蜜夢《前編》❀家康 × 三成❀
「本当に嫌になるよ…休みの日くらい、嫌いな奴の顔なんか見たくないのに、どうしてこうなるんだ……そもそも、三成がちゃんと返してくれれば、俺が行く必要なんてないのに……」
さっきから、文句しか出てこない。
本当に三成の性格には困ったものだ。
まぁ、戦術馬鹿には一般常識を付けろと言っても無理かもしれないが。
戦ではあんなに有能なのに、どうして生活の事になると全然駄目なのだろう。
とりあえず本を返してもらうだけなので、何も荷物は持たずに、三成の御殿までの最短の道を行く。
ぶつぶつと文句を言い、苛立ちながら。
どうにか人混みの中を歩いていた時だった。
ふわりっ……
(ん……?)
突然、鼻を掠めた香りに、家康は思わず足を止めた。
何か、いい香りがする。
花の蜜のような、そんな誘われる匂い。
何か、心の奥底が疼くような……
思わず辺りを見渡し、その香りの正体を探す。
すると、それは路地の裏の方から漂っているように思えた。
「なんだろう……」
急いではいたが、興味の惹かれるままに足を向ける。
大通りから小路地に入り、また一歩。
足を路地裏へと踏み入れた時。
つま先に何か硬い物が当たり……
思わず視線を足元に向けた。
「ん…本……?」
それは、一冊の本だった。
よく表紙を見てみると、西洋の文字で……
なんで、こんな所にこんな物が?
そう思い拾ってみようと、手を伸ばした。
瞬間の刹那だった。
「やんっ…ぁあっ……!」
突然。
女の甘ったるい啼き声が、路地裏のさらに奥から響いた。
思わず本を落としてしまい、そのまま声のする方に顔を向ける。
すると物陰から、鮮やかな着物の切れ端が見え隠れしていて……
その着物の柄に、何故か見覚えがあった。
「ぁっ…ぁあぁっんっっ…だ、めぇっ……!」
さらに響いてくる、女の喘ぎ声。
それはまさに、情事の真っ最中の声で。
それに加え、強くなる例の香り。
それを感じてしまい、思わず身体が強張る。
一体奥で、何をやっているのか。
(でも、この声なんか……)
着物の柄だけでなく、その声まで。
何か聞き覚えがあるような気がして、思わずゆっくり奥へと足を進める。