〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第97章 鈍色ラプソディ❀豊臣秀吉❀
(なんかいい匂いもするしな…香のせいか)
ぴったりと俺に寄り添っているから、美依の香りまでこちらに届く。
ふわりと漂う甘い匂いは、まるで花の蜜の匂いに似ていて、それが香るだけで心がざわつく。
それに、浴衣に薄い羽織を着ているだけの美依はとことん無防備で……
この姿で城から歩いてきたのかと思ったら、正直複雑な心境なのも確か。
やっぱり迎えに行くか、城の部屋で月見をするんだったな……と今更後悔するくらいに。
「秀吉さん、今日はお誘いありがとう。こうやって月を眺めながらの逢瀬も情緒があっていいね」
すると、美依が俺の肩に頭をもたれかけさせて、また可愛らしく言った。
肩に掛かる重みと体温、それにさり気なく縮まった距離に、心ノ臓がとくんと音を立てる。
……このくらいで動揺するとか、ガキじゃあるまいし。
俺は一呼吸置き、美依側の腕を伸ばして、その細い肩を包み込んだ。
そして軽く引き寄せながら、美依の言葉に返答をしてやる。
「最近忙しくて、お前を構ってやれてなかったしな。今日も本当は一日構い倒せれば良かったんだけど」
「ううん、こうして夜に時間を作ってくれただけ嬉しいよ」
「そっか……なら、良かった」
(本当に健気で可愛すぎるだろ)
もっとわがままになってもいいのに、美依はいつも謙虚で健気だ。
市を回っても『あれ欲しい』と強請ってくることもない、単に遠慮しているだけかもしれないが……
そうなると、俄然甘やかしてやりたくなる。
でもそれは『睦み合う』とは別の意味で。
────俺達はまだ、体を重ねていない
俺がそこまで踏み出せずにいるからだ。
機会は多々あったけれど、上手く交わして今に至る。
抱きたくない訳じゃない、抱くのが怖い…というのが正しいか。
俺の想いはえげつなさすぎて『真っ黒』だと思うからだ。
それは美依が俺に抱くような、綺麗なものではない。
なんと言うか、もっと醜く激しくて……
『こんなの秀吉さんじゃない』と嫌われるんじゃないかと、そんな気すらしてしまう。