〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第96章 桔梗色の恋情と雪の華❀明智光秀❀
(ごめんなさいって、一緒に入りましょうって…やっぱり言ってこようかな)
一緒に入るのが恥ずかしいのは変わらない。
でもせっかくの記念日に、このままでは駄目だ。
私が一言謝れば、光秀さんはきっと解ってくれる。
でも──……
顔を合わせづらい。
さっきから『でも』ばかりで頭の中がまとまらない。
温泉から出れば、光秀さんの待つ部屋に戻らねばならないし…だから温泉からも出るに出られないのだ。
そんな悩む時間ばかりが過ぎていく。
今日は久しぶりの逢瀬で、楽しい一日のはずだったのに。
────こんなの、やっぱりだめだよ
「私から誘えば…喜んでくれるかも」
思わず、ぽつりと言葉を漏らした。
その時だった。
「────湯加減はどうだ、美依」
「───………っ!」
突然背後からした聞き慣れた声に、私は声を出すのも忘れて振り返った。
するとそこには、いつの間に来たのか、光秀さんが立っていて。
お湯に浸かる私を、温泉の縁の所から、じっと見つめていた。
「み、み、光秀さんっ…!」
「あまりに戻って来ないから、湯にでも当たってひっくり返っているかと思ったが…平気そうだな」
「あ…だ、大丈夫です」
「ならいい、邪魔したな」
それだけで会話は終了し、光秀さんはまた背を向ける。
その後ろ姿を見て、私は思わず温泉から立ち上がった。
心配して見に来てくれたんだ。
でも、行っちゃだめ………!
「光秀さん、一緒に、入りませんか…?!」
躊躇いもなく、そう口にする。
迷ってる暇なんてない。
考えるに考えた、でも…
私はやっぱり、貴方とそうしたい。
すると、光秀さんはぴたっと立ち止まり。
ゆっくり、再度こちらに振り返った。
が、私は瞬間的に気がつく。
光秀さんが…最大限に意地悪な笑みを浮かべていたことに。
「やっと言ったな、お前」
「えっ」
「お前からの誘い、喜んで受けよう」
「えっ、え…?」
「今支度をしてくる、お前の期待に応えなくてはな?」
くっくっと声を押し殺すように笑いながら、光秀さんは一旦姿を消した。
光秀さんが去った後…
言葉が頭の中でぐるぐる回って、私は思わずじゃぶんと勢いよく温泉に身を沈めた。