〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第96章 桔梗色の恋情と雪の華❀明智光秀❀
「一緒に入ると、その、色々と!」
「色々…したいのか?」
「……っ、ち、違います!」
今度は耳元で艶やかに囁かれ、ぞわぞわっと肌が震えた。
だめだ、こんなんじゃ絶対…
絶対一緒に入るなんて無理!
「と、とにかく一緒には入りませんから!」
まるで吐き捨てるように言い……
私が真っ赤になって俯いてしまうと。
光秀さんは手網から片手を離し、一回私の頭を優しく撫でた。
そして、さも残念そうに……
少し掠れた声で、呟くように言った。
「……拒まれると結構辛いな」
「っそんなんじゃ……!」
「嫌ならば仕方がない、残念だ」
「……っ」
(もしかしなくても…今、傷つけちゃった?)
その後、光秀さんは終始無言だった。
話しかければ返事はしてくれたけど……
会話が続かなかったのはもちろん、『温泉に一緒に入る』と言う話題に触れることも一切なかった。
そのままの状態で村に着いてしまい。
温泉近くの宿屋の部屋でも『ゆっくり入っておいで』と、あっさり送り出されてしまった。
『一緒に入らない』と啖呵(たんか)を切っておいて、それをされると寂しいと思うなんて……
私は本当にわがままだ。
まるで、駄々っ子の子供みたい。
でも、ただ恥ずかしいだけで、本気で嫌がったわけではなく……
それは多分、光秀さんも解っているだろう。
それでも、ちょっと突き放す態度を取るのは。
(やっぱり、傷つけてしまったんだ)
私は独り温泉に浸かりながら、盛大にため息をつくしかなかった。
謝らなくちゃ、光秀さんに。
そうは思っても、なかなか行動に移せるわけでもなく。
『一緒に入りましょう』と誘えるわけでもなく。
せっかくの逢瀬なのに、私は若干寂しさと後悔を覚えていたのだけど──……
「あーもう、本当に私のばか…!」
お湯に身体を浸しながら、何度目かの同じ台詞を吐く。
私は後悔で頭がぐるぐるになりながら……
温泉から出る事も出来ずに、ただただ嘆く時間が過ぎていた。
温泉はとても心地良い。
少し熱めだけど、乳白色の柔らかな水質で……
これで、光秀さんが居れば最高なのに。
拒んだくせに、私の頭の中はそればかりが渦巻いていた。