〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第95章 花盗人と籠の白百合《後編》❀伊達政宗❀
『美依に会ったんですか?』
『おう、面白ぇな、あいつ』
『まぁ、接触は程々に…政宗さん』
『それは知らねぇ、約束は出来ないな』
そう会話をした記憶が蘇る。
家康はもう一度美依の肩を掴むと……
少し焦ったように、美依に向かって言葉を紡いだ。
「美依、そこ粉か何かはたいて」
「えっ」
「今すぐ!信長様に見つかる前に…」
「────俺が、どうかしたのか」
だが、時すでに遅し。
その時、後ろの襖から姿を見せたのは…
深紅の瞳を、静かに燃やした信長。
その怒りを抑えたような、不機嫌な表情に。
今の会話を全て聞かれていたと。
家康は瞬時に悟ったのだった。
*****
(美依、どうしてるかな……)
根城にしている宿屋の一室。
俺はそこで、畳に寝転びながら……
ここのところ毎日思い浮かべている女を思い出しながら、また小さくため息をついた。
あの契りの夜から──……
俺は美依に会いに行ってはいない。
なんとなく、もう会ってはいけない気がした。
信長の籠の鳥の美依。
俺はそれがあまりに不憫だと思い、外に連れ出した。
そして自覚した、美依への思い。
いつの間にかこんなに惚れてた。
純で無垢で、可愛いアイツに。
────でも、駄目なんだ
『今の俺』は、信長の敵だ。
『独眼竜』と名乗る泥棒である以上……
美依を奪えば、それなりに代償はついてくる。
それに、籠の鳥でいるアイツに……
『もっと自分の幸せを考えろ』だなんて。
それははなから無謀なのでは、とすら思う。
アイツの中で、選択肢は。
『信長の女になって自由を得る』
『信長に応えず、一生籠の鳥でいる』
この二択しかない、それ以外を考えていない。
『誰かの女になり自由を得る』なんて答えは
美依は微塵も考えていないのだと言う事。
(そんな状態でかっさらうなんて…無理だろ)
諦めるなんて自分らしくないけれど。
俺は今、泥棒である理由があるから……
それが捨てられない以上。
やはり美依を切り捨てねばならないのだと、そう思う。