〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第93章 花盗人と籠の白百合《前編》❀伊達政宗❀
「お好きな所にお座りくださいね」
(これは……すげぇな)
そいつに案内された一室。
それは離れには相応しくない、煌びやかで豪華な部屋だった。
見るからに高そうな家具、壁に掛けられた上等な布の着物。
立派な鏡台の上には、装飾品も並び……
それらが値の張る一級品だという事が、一目見ただけで解った。
コイツ…一体何者だ?
疑問符が頭の中に飛び交い、それでもその女の真向かいに座り込む。
すると女は高そうな茶器から、手際よく茶を点て、俺に椀を差し出した。
「どうぞ、美味しいお抹茶ですよ」
「ああ、ありがとな」
「あ、お茶菓子も必要ですね!」
なんだかやたら楽しそうに菓子まで差し出す。
なんか、さっきからにっこにこしてるし……
どうも調子狂うな。
俺は胡座に頬杖をついて、女を見ると、さっきから思っている疑問を女に投げかけた。
「お前、名前は?」
「美依と言います」
「美依、ここに住んでんのか?」
「はい、信長様のご命令なので……」
「……信長の?」
城主信長の命令で、ここに住んでる。
こんな煌びやかで立派な部屋に……
つまり、信長の女ってことか。
しかし、なんでこんな人気のない場所に住まわせてるんだ?
疑問は限りなく浮かんでくる。
しかも、なんか天然と言うか、何にも知らなそうな感じ。
(世間知らずな、織田家ゆかりの姫か何かか)
俺は椀を手に取ると、その抹茶を一口飲む。
上品な苦味のあるその抹茶、それを味わい、俺はふっと頬を緩めた。
「へぇ、美味いな」
「でしょう?お茶菓子も美味しいですよ」
「お前さ、何か変だと思わないのか?」
「……何がです?」
「こんな真夜中に知らない男がうろちょろしてて、今世間を騒がせてる泥棒だ…とか考えないか?」
俺が苦笑混じりに問いかけると、美依は目をぱちくりさせて首を傾げる。
あ、これ何も解ってないな。
それがありありと感じられ、俺はぷっと吹き出した。
世間知らずなお姫様か。
じゃなかったら、見ず知らずの男を茶になんて誘わないだろう。
しかも部屋に招き入れるとか……
よっぽど大事に大事にされているに違いない。