〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第93章 花盗人と籠の白百合《前編》❀伊達政宗❀
だが────…………
「────…………!」
改めてそのぶつかったと思われるものに視線を向けて、俺は思わず目を見開く。
それは、とても小柄な女だった。
細々とした行灯に浮かび上がるのは、艶やかな長い黒髪に、真っ白な肌、薔薇色の頬。
くりっとした黒真珠のような瞳は、俺を見て零れんばかりに見開かれている。
桃色の着物を纏った、華奢すぎる身体がさらに男の保護欲をそそると言うか、なんと言うか。
(……すげぇ可愛いな、こいつ)
思わず刀を抜くのが躊躇われ、その女に魅入ってしまっていると……
女は俺を頭からつま先まで何度も舐めるように見て、その桜の花びらのような唇を開いた。
「お客様、ですか?」
「は?」
「こんな離れにお客様なんて珍しいですね、私初めてお会いしました!」
「……」
(なんだ、こいつ……?)
抜刀しようとしている俺に向かって、にこにこと無垢すぎる笑顔を向けてくる。
お客様ですかって……
こんな深夜におかしいと思わないのか?
どこかトンチンカンと言うか……
なんかその純粋すぎる問いかけに、毒っ気を抜かれた俺は、刀の柄から手を離し、再度まじまじとその女を見た。
何故、こんな離れにいるのだろう。
今や『独眼竜』騒ぎで、警備も厚くなっている最中だ。
こんな極上の女を、独りこんな場所に置いとくのは変じゃないか?
色んな考えが頭の中をぐるぐる交差する。
すると、その女はいきなり小さな手で、俺の手をそっと掴んできて……
花のような笑みで、俺に尋ねてきた。
「せっかくですから、私の部屋でお茶でもどうですか?」
「……は?」
「お客様なんて初めてなので、おもてなしをさせてください。美味しいお抹茶があるので」
「……」
「遠慮なくどうぞ、こちらです」
そう言って、女は俺の手を引く。
俺は呆気に取られたまま、その女に手を引かれて歩き出した。
なんなんだ、コイツ。
警戒心の欠片もねぇ。
こんな真夜中に知らない男に出くわして、刀を抜かれようとしても怯えもせず『お茶でもどうですか』ときた。
(……なんだか面白ぇ事になりそうだな)
俺は若干この女に興味を引かれ、そのまま付いていく事にした。
面白い事は嫌いじゃない。
勿論、可愛い女も嫌いじゃないしな。