〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第93章 花盗人と籠の白百合《前編》❀伊達政宗❀
「相変わらず、信長様が贈られた品物には手を付けず、本ばかりを読んでおります。あの、こう言ってはなんですが……」
「どうした、秀吉」
「もう少し美依に自由を与えても良いのでは?」
「……それは出来ん」
信長は急に怪訝な顔になり、ふぅっと息をつく。
そして、静かな声で……
まるで自分に言い聞かせるように、ぽつりと呟きを漏らした。
「あやつは純粋な白い花だ。俗世間の汚れに染まってはならん、故に自由を与える気はない。あやつが俺を見るようになるまでは…美依はあそこから出す気はない」
その信長の答えに、武将達は顔を見合わせ、小さくため息をつく。
たった一人、家康だけが……
何かを考えるように一人俯き、不機嫌そうに眉を顰めた。
────そして、その日の深夜
「さぁ、今日も"仕事"の始まりだ」
俺は眼帯の紐をきゅっと結び直すと、にやりと笑って庭先の壁から中庭へと降りた。
今日の『仕事』は離れに隠してあると言われている、ある宝物を盗むことだ。
『あの男』の情報によると……
誰の人目にも触れずに、こっそりと隠してあるとか。
(どんな物かまでは聞いてないが…人目から隠してあるなら、きっと良いもんに違いない)
まだ見ぬそれに、思わず思いを馳せる。
中庭をこっそり抜け、警備の目をくぐり抜けて、城の離れの建物へと近づいた。
城中は豊臣秀吉が率いる警備兵で、かなり入り込むのが困難になっているが、この離れの方は誰一人としていない。
宝物が隠されているんじゃないのか?
なのに、何故こんなに手薄なのだろう。
疑問はふつふつと浮かぶものの……
本当に宝物があるのだとしたら、こんな絶好の機会はない。
頂くものだけ頂いて、さったと逃げちまおう。
そんな事を思いながら建物の中に入り、薄暗い廊下を進んでいく。
明かりも僅かな、その通路を歩いて…
左に折れる曲がり角に来た時だった。
────どんっ!
「うわっ」
「きゃっ…」
出会い頭に、何かにぶつかった。
ぶつかったものが悲鳴を上げた事から、人にぶつかったのだと瞬時に理解し……
俺は対象物を確認しないまま、反射的に刀の柄に手をかけた。