〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第93章 花盗人と籠の白百合《前編》❀伊達政宗❀
「また逃げられたのか、秀吉」
「はっ、申し訳ございません!」
真っ昼間の広間に響く、秀吉の謝罪の声。
それはもはや、近日の安土城では恒例で……
信長に向かって頭を垂れる、その姿を見て、一緒にその場に座る光秀、家康、三成は顔を見合わせ溜息をついた。
理由は、毎回同じ事。
城中の警備を一括する秀吉が、最近頭を抱えている問題に直結しているのだが。
「さっさと"独眼竜"を捕まえろ、献上品ばかりに手を出されては、こちらも相手側に面目が立たぬというものだ」
「"独眼竜"ですが、恐ろしく腕が立つ上に、姿を目撃したものは容赦なく斬り捨てられております。故に、捕縛がなかなかに困難で……」
「"独眼竜"については何か掴めましたか、光秀さん」
「いや…そちらの情報もさっぱりだ」
家康に言われ、光秀は眉を顰(ひそ)める。
そして、低く通る声で、広間に集まる武将達に説明をしだした。
「"独眼竜"は城に盗みに入る際、僅かな痕跡すら残さない。そして奪われた献上品がどこかに流れていないか探ってみても…なんの手掛かりすら掴めない。正直、かなり手を焼いている」
その説明を聞き、信長は脇息にもたれながら『前途多難か』と深く溜め息をついた。
光秀ほど情報の網羅を張り巡らせている男が『手を焼いている』と言っているのだ。
そして、秀吉ほどの腕を持つ男が捕縛が困難と。
夜な夜な安土城に入り込み、盗みを働く"独眼竜"という泥棒は、一筋縄ではいかない男らしい。
重苦しい空気が広間に立ち込め……
それでも信長はにやりと不敵に笑み、くくっとくぐもった笑いを漏らした。
「まぁ、相当腕の立つ男ならば、これほど愉快な事はない。そのような男をねじ伏せ、その正体を晒すのも一興だ。捕まえたら、家臣に加えても良いかもしれぬな」
「なっ…信長様、そのような事を!」
「時に秀吉、美依の様子はどうだ」
「あ、美依でございますか?」
信長の発言にいちいち振り回されながら、秀吉はそれでも生真面目に姿勢を正す。
そして、険しい顔をして……
苦々しく、その問いに対して答えた。