〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第92章 君が傍にいるだけで《後編》❀織田信長❀
「貴様は六花をこの世に誕生させた。だが、その代償は貴様の身体に残った。それだけ大仕事だったという事だ、だから休むのは当然だろう」
「……」
「それは決して駄目だと思う必要はない、貴様には必要な時間だ。身体を休め、回復すれば、きっと乳も出るだろう」
「……っ」
「忘れるな、美依」
言ノ葉ひとつひとつに祈りを込めて。
俺の思いを、凍るような空気に響かせて。
愛している妻に、
これだけは伝えたい。
────俺は、傍にいるのだと言う事を
「俺は誰よりも貴様の近くにいる。貴様は決して独りではないのだから。もっと頼れ、心を曝け出していい。俺が受け止めてやる、貴様の辛い部分も何もかも。そして…自信を持て、六花の母は貴様しかおらんのだ。六花をこの世に産み出したのは貴様自身の力だ、それをもっと…誇りに思え」
何が正解なんて、誰にも言えない。
ましてや、自分のやっている事が正しいかなんて、そんな事は他と比べようもない。
だったら、己を信じるだけだ。
『やれる』と言う可能性を。
ただひたすらに、貪欲に──……
その気持ちは、必ずいい方に傾くはずだ。
「のぶ、なが、様っ……」
すると、美依は身体を捩り、俺の胸にぎゅっとしがみついてきた。
小刻みに身体を震わせ……
再度抱き締め直してやると、胸元に顔を埋めたまま、か細い声で言う。
「ごめんなさい、信長様。私、勝手に独りで苦しんでいました。信長様に些細な事でも話せと言われていたのに…独りで抱え込んで」
「そうだな、俺は頼りないらしい」
「……っそんな事はないです!」
「なら、これからは話せるな?」
「はい…一番に、信長様に言いますね」
「よし」
俺が頷くと、美依は胸元から顔を上げ、俺を見て笑顔になった。
それは、雪解けの笑顔。
心の闇が白い空気に溶けて、晴れ晴れとしたような…
そんな愛らしい笑みだった。
(……その顔が見たかった)
悩んでる時には寄り添い、助け合い。
そして、お互いの足りないものを埋め合う。
それが夫婦だろう?
貴様が俺に温かさを取り戻させたように、俺も貴様に教えてやる。
自分の価値を、居場所を。
貴様は──……
ただいるだけで、尊いという事を。