〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第92章 君が傍にいるだけで《後編》❀織田信長❀
「美依……」
「うっ…うぅっ……」
「泣くでない、美依」
「ご、めんなさっ……」
震える小さな身体に腕を回し、きつく抱き締めても、美依は泣くのを止めない。
このように自分を追い込んで……
母親失格なと、そんな事は決してないのに。
この小さな身に、どれほど責任を感じていたのか。
それに気づけなかった俺は……
本当の意味でのうつけ者だ。
「美依」
「ひっく……はい……」
「少し一緒に月でも見るか」
「え……?」
「今宵は寒いが、月が綺麗だ」
俺は美依の涙を拭ってやり、羽織を着させて抱え上げると、そのまま廊下へと出た。
そして、庭に面する縁側へと腰掛る。
キンと張り詰めるような冷たい空気の中、美依を背中からすっぽり包み込み……
お互いの体温で温め合いながら、空を見上げた。
その寒空には、冴え冴えと鋭い三日月が、まるで凍りついたように静かに輝いている。
(ああ……月はいつも見ていてくれたのだな)
ふと、そんな事を思い……
俺は美依を優しく抱き締めながら、その耳元で謝罪の言葉を口にした。
「悪かった、美依」
「信長様……?」
「貴様が辛い思いを抱えている事に気がつけなかった。単に体調が悪いだけでなく…自分を責めている事、もっと早くに気づいてやれれば良かったのに」
「それは、違っ……」
「聞け、美依」
その弱った身体を包み込みながら、己の気持ちを伝える。
本当の意味で『支え合う』とは。
足りない部分を補い、寄り添ってやること。
心も、身体も──……
『温めたい』と言ってくれた貴様に。
今度は俺が温めてやる番なのだと言う事。
「美依、初めから完璧な母などいない」
「え……?」
「何故初めてで、全て上手くいくなどと思う?皆学びながら成長するのだ、最初は解らずとも、次第に要領を得るようになる。何故泣いているかなど、俺とて解らん。だが、解ろうとする努力はするがな」
「信長様……」
頬をくっつければ、美依の温もりが移った。
温かい美依。
でも、心はとても闇を抱えていて。
俺の言葉よ、届けと。
願いながら言ノ葉を紡ぐ。