〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第92章 君が傍にいるだけで《後編》❀織田信長❀
そんな事をしばらく続けていると。
泣き疲れたのか、安心したのか…
六花は自然と泣き止み、俺の腕の中ですっかり眠ってしまって。
俺は六花が起きないのを確認すると、そっとその小さな身体を美依の隣へと寝かしつけた。
さすれば、安堵の溜め息が漏れる。
俺は改めて美依の脇へと腰を降ろし…
妻の華奢な肩をやんわりと抱いた。
「寝ましたね、六花」
「そのようだな」
「私があやしても全然だめだったのに…」
「俺とて、赤子をあやすなど初めてだ。眠ったのは奇跡的だな」
「……」
すると、美依は暗い顔をして俯く。
行燈の明かりに照らされて、浮かび上がる白い顔。
それはとてもやつれたようで…
少し食べるようになって、体調も違うかと思っていたが、それは独りよがりだったのかもしれない。
「顔色があまり良くないな、貴様」
「信長様は、すごいですよね……」
「は……?」
「やった事もないのに、六花を泣き止ませるし。公務の間にご飯作って私に食べさせたり…本当に、父親としてしっかりしてると言うか」
「美依……」
「私なんて、全然だめです」
その時。
美依の瞳から雫が零れ、ぽたっと褥を濡らした。
細い肩を小刻みに震わせ…
美依の口から語られた事、それは。
『不安』と『自責の念』
そして…『自虐』
責任感の強い真面目な美依が、ずっと心に抱えていた『闇』だった。
「母親なのにお乳もあげられなくて、なんで泣いているかも解らないし、身体を壊して…まともに面倒も見てあげられないし」
「美依……」
「私は母親失格です。もっとしっかりしなきゃいけないって…そう思えば思うほど、何も出来ない自分が歯がゆい」
「……」
「私なんかが母親でいいのかな、こんなだめな母親なんて…いる意味あるのかな」
(美依、貴様──……)
そのように自分を責めていたのか?
何も出来ないと、母親失格だと。
責任を全て背負い込んで…
その気持ちを、俺は知らなかった。
こんなに美依が追い込まれているのに。
だから、笑わなくなったのか。
そんなに心身共に弱って、
自分を駄目だと、決めつけたのか──……?