〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第92章 君が傍にいるだけで《後編》❀織田信長❀
それに俺が気づいたのは……
それからさらに数十日後のことで。
ふとしたきっかけで、夜中に美依の元を訪れた時。
そう、その時美依は──……
抜け出せない暗い闇に入り込んでしまい、独りで必死にもがいていたのだ。
*****
(うん?六花の泣き声……?)
その凍えそうなほど寒い夜。
美依と六花が寒がってないかが気になり、俺は夜中遅い刻に美依の部屋に向かっていた。
部屋の近くの廊下を歩いていると、赤ん坊のけたたましい泣き声が響いていて。
そのまま、部屋の前まで来た時に聞こえてきたのは…
美依の戸惑うような声だった。
「りぃちゃん、泣き止んで…どうして泣くの?お腹が空いたの?おしっこしたの?私、解らないよ…お願い、りぃちゃん、泣き止んで、お願い」
その泣きそうな声に……
俺は急いで部屋の襖を開いた。
すると、褥に座って六花を抱いた美依が、びくっと身体を震わせ、俺の方を見る。
瞳に涙をいっぱい溜めて……
真っ白に青ざめた顔が、やけに痛々しく見えた。
「信長、様……」
「どうした、大丈夫か?」
「六花が泣き止まなくて、さっき乳母の方がお乳を飲ませに来たので、お腹は空いてないと思うのですが……」
「俺が代わる、貴様は横になれ」
俺は美依からそっと六花を受け取り、立ったまま六花をあやし始めた。
真っ赤な顔をして泣き続ける我が子。
まだくたくたで、首すら座っていない。
そんな産まれて間もない赤ん坊を、あやした事など無いけれど……
それでも、やらねばならない。
俺はこの娘の父親なのだから。
「よしよし、六花…どうした。寒かったか、父が居なくて寂しかったのか?泣くでない、よしよし…良い子だ」
立ってゆらゆらと揺すぶりながら声を掛け続ける。
そんな様子を、美依はずっと見ていた。
横になればいいのに、身体を褥から起こしたまま。
娘はまだ赤ん坊、泣くのが仕事だ。
何か不快な事を感じ取ったのかもしれないし……
(だが、泣いていたって愛しい我が子だ)
その重みを腕に感じながら、愛しさを覚える。
それは…美依に対してとは違う形の愛情だ。