〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第89章 菫色の指切り-貴方が教える×××-《前編》❀石田三成❀
「指切りなんて、よく覚えてたね」
「はい、貴女とした事はなんでも覚えていますから」
「そっか…じゃあ、指切りげんまんだね」
「はい、絶対無茶をしない事。約束、ですよ?」
お互い微笑みあって、その小指に力を込める。
その瞬間、少し涼しい秋風が頬を撫でて…
それは美依様の髪もふわりとなびかせ、光を浴びてきらきらと煌めいていた。
こうして──……
私と美依様はその日、ある『約束』を交わしたのだった。
『絶対無茶はしない事』
美依様が本当にそれを理解したかは不明だ。
だって……
理解したのだったら『こんな事』は起きなかったからだ。
美依様と交わした約束。
それは私の中の淡い恋心とも絡み合って、意外な方向に向かっていく。
私からしてみれば、それは望ましい事だったかもしれないけれど…
今の私は、それを知る由もない。
ただ、なびく美依様の髪にもっと触れたいと。
相変わらず燻った熱い恋情に、心を焦がすだけだったのだ。
*****
「わっ……!」
バサバサバサッ……!
伸ばした手の先で、本の山が崩れて音を立てる。
私は崩れた山の一番上の本を手に取ると…
軽くほこりを叩いて、その頁をめくった。
────あれから、数日経ったが
今は特に何も起きてはいない。
美依様にも会っていないし、私は相変わらず書庫で戦術書を漁っては読みふけっていた。
この乱世、いつ戦になるか解らないから…
だから知識はあるだけ詰め込んでおいた方がいい。
でも──……
(美依様、会いたいなぁ……)
ぱたんとすぐに表紙を閉じる。
いまいち読書に集中しきれない自分が居て、小さくため息が漏れた。
美依様を好きになって…
あまりにもあの方が私の心を占めるからだ。
だから、こんなにも集中出来ない。
読書に没頭すれば、食べる事も寝る事も、平気で犠牲にするほど集中出来ていた私が。
あの方を思うだけで…何も、手につかないのだ。
「もう…末期かもしれませんね、この症状」
天井を仰ぎ、ぽつりと呟く。
戯言のような私の嘆きは…
誰に届く訳でもないから、苦しい。