〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第88章 Dear…《後編》❀豊臣秀吉❀
「戻ったよ〜」
「お、帰ってきたな」
「あれ、この方どうしたの?」
一人の女が、店の主人に親しげに話しかけながら、その隣に座ってきた。
店主の妻か何かか。
ちょっと不思議そうな顔をして、俺を見つめる。
そのまま店主がその女に理由を説明すると…
そのつぶらな瞳を見開き、口に手を当てた。
「物騒な話ね……あっ!」
「……どうしたんだ?」
「そーいや、こんな物を拾ったんだけど、何か関係あるのかね」
と、女はおもむろに懐に手を入れ…
何かを取り出し、それを俺に見せた。
それを見た俺は目を見張る。
緑珠に、華奢な鎖が揺れる簪。
それは見間違うはずがない。
珠々が生まれた記念にと…
俺が美依に贈った物だったからだ。
それを今日も挿していたのを見ている。
まさか、連れ去られた時に…?
「それ、どこで拾ったんだ?!」
「神社の御神木の所だよ。ほら、拝殿のすぐ脇の」
「その情報、恩に着る。ありがとな!」
俺は二人に頭を下げ、再度人並みを掻き分けて、その御神木へと向かった。
夏祭りは、神社の鳥居から参道に沿うように露店が並んでいる。
その奥に参拝するための拝殿があるが、多分そっちの方までは露店は並んでいないはずだ。
つまり…人通りも少ない。
多分美依達は、賑やかな場所から少し離れた所で休んでいて、そこを狙われたに違いない。
(美依、無事でいてくれ……!)
今回の事は、俺が全て悪い。
馬鹿みたいにヤキモチを妬いて、我を通したいからと美依と愛娘を二人だけにした。
珠々は三人での夏祭りを楽しみにしていた。
それは美依も同じだろう。
もっと…俺が大人であれば良かったのに。
もっと、二人を思いやれる父親であったなら。
────美依、ごめんな
一歩一歩、進む毎に湧き出るのは自責の念。
まだ、やり直せるのか。
今度はヤキモチなんてやり方じゃなく、きちんと自分の気持ちを伝えるから。
俺の揺るぎない想いも。
お前達との立ち位置も、全て。
だから、頼むから無事でいてくれと…
ひたすらにそれを思わずにはいられない。