〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第87章 Dear…《前編》❀豊臣秀吉❀
「きゃっ……」
俺が美依の肩を押し、その身体を畳に押し倒すと、美依は小さく悲鳴を上げた。
その華奢な身体をこうしたのは、一体いつぶりか。
上から美依を見下ろせば、昔と何も変わっていない…
怖いほど澄んだ瞳が、俺を見つめながら揺れていた。
「だったら、どうだって言うんだよ」
「秀吉さん、すずに見られたら…!」
「別にいいだろ、見られたって。当たり前にこうしてきたんだから、俺達は」
「ちょっ…ぁっ……!」
思わずその襟元を開き、軽く鎖骨に噛み付く。
途端に美依から漏れた、久しぶりに聞く甘い吐息。
それを聞いただけで、血が沸騰したかのように、身体が高ぶった。
この感覚は、久しく遠ざかっていたものだった。
時間も忘れ相手を求めて、ひたすらに想いをぶつけていた、蜜な恋情。
神経が研ぎ澄まされ、痛い程の甘美な瞬間。
それは失われてはならないと…
俺はそんな風に思うから。
「秀吉さん、だめっ……!」
そのままさらに着物の合わせを開こうとすると、美依は抵抗するように俺の手を掴んだ。
美依は嫌なのか。
ずっと俺にこうされてきたのに…
お前は俺を拒むのか。
それがさらに苛立ちを煽り、俺は思わず声を荒らげた。
「なんで、だめなんだよっ……!」
「秀吉さん、いい加減にして!」
「別に普通の事だろ?!」
「……っ、離して!」
すると、美依は力を入れて俺の身体を押し退け、身を起こすと急いで乱れた襟元を直した。
そして、こちらを睨みつける。
その瞳は潤み、泣く一歩手前で。
怒りが露わのその視線は、まるで俺を軽蔑するようだった。
「秀吉さん、こんな事する人じゃなかったのに」
「美依……」
「もっと大人だと思ってた。こんな子供っぽい事…」
「……っ」
「もういいよ、秀吉さんなんか知らない」
そのまま立ち上がり、足早に立ち去る美依。
俺はその後ろ姿を追いかけもせず…
後味の悪い喧嘩に、思わずため息をついた。
そして今まで美依に触れていた手に視線を落とす。
柔らかな感触と温もりが残った手。
今はそれが嬉しいはずもなく、ただ自分に呆れるしかなかった。