〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第87章 Dear…《前編》❀豊臣秀吉❀
「すず、あんなに夏祭り楽しみにしてるのに、置いていくって言うの?」
「いや、誰かに預けるとか」
「すずは三人で行きたがってるの、絶対だめ」
「……」
(……お前は理由も聞かないのか?)
俺がなんでこんな事を言うのか。
理由も聞かずに、頭ごなしに反対するのか。
子供が一番、そんなのは解ってる。
だが──……
母親である前に、お前は女だろう?
お前は、俺の女なのに。
「お前は珠々、珠々ってそればっかだな」
美依の言葉に若干カチンときた俺は、眉をひそめると、少し強めの口調で美依に言った。
「何かあれば珠々、珠々って」
「当たり前でしょ、母親だもの」
「それ以前に、お前は女だろ?たまには子供一番の母親じゃなく、女に戻れ。俺はそれを望んでる」
「えっ……」
今度は呆れたようにため息をつき、額に手を当てた美依。
それは俺が馬鹿げたことを言っていると…
そう受け取ったのだと、俺は瞬間的に思った。
「なんだよ、そのため息」
「秀吉さんが呆れる事を言うからじゃない」
「え……」
「私はもう親なの。秀吉さんもそうでしょう?子供が一番になるのは当たり前だし、そうならなきゃだめなの」
「だけどな……」
「私はすず一人にさせられない。秀吉さんも父親なら解って、すずにヤキモチ妬いてるの?」
ヤ キ モ チ
それは、俺の核心に触れる言葉だった。
結局は、美依を独り占めしたいのだ。
珠々が生まれてから、美依を取られた気になって。
それは、嫉妬、独占欲。
愛する我が子に、
本来ならば最愛の存在の娘に。
(……ヤキモチだったら、なんだよ)
俺だって、美依を独占したい。
奪われた膝の温もりも、一緒の褥も。
本来ならば、俺のものだったのだ。
珠々を愛してる、愛しい我が子なのだから。
でも…美依は最愛の女だ。
『一番』は珠々でも『唯一』なのは美依だ。
愛する形が違う
意味が違う
どちらも大切だから
どっちも尊く、愛しいから
お前は違うのか、美依
俺はすでに切り捨ててもいい存在に
成り下がったのか……?