〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第86章 純愛イノセンス《後編》❀徳川家康❀
「家康さま、あのね……」
「……うん」
「迷惑かもしれないけど、そのっ……」
「……」
「私っ……」
桜色の唇が、言葉を象る。
とても言いにくそうに、たどたどしく。
それは、恋なんてまだ知らない。
幼い少女が、初めて口にした…
────『想いの形』だった
「家康さまのこと、すき……!」
「……!!」
────ザァァァァッッ!!
刹那、
川岸から吹いた、強い風。
まるで心の中に吹き荒ぶように…
俺の中に波風を起こしては
想いまで絡めとって流れていく。
「昨日ぎゅってされて、耳元で囁かれて…訳わかんないくらい、ドキドキしたの。そしたら、家康さまを見れなくなって、話せなくなって」
「美依……」
「私、家康さまから見たら子供だし、家康さまに大切な人が居るのも解ってるけど、でもっ……」
「……っ」
美依の瞳から雫が零れた。
きらきら、きらきらきら。
陽に当たって、光って、煌めいて。
紛れもなく純粋で、混じりけのない…
心のど真ん中に突き刺さる、真っ直ぐな気持ち。
「私、家康さまがすき。こんな想い…初めてなの。もっと一緒に居たい、もっと傍に近づきたい。私じゃ家康さまの大事な人には敵わないけど…でも、私…!」
────美依の初恋から、ずっと
俺だけを想っていてくれたらいいのに
『美依のたった一人の男になりたい』
そう願いながら眠りに落ちた七夕の夜。
あの思いは、織姫と彦星に届いたのか。
この子が想うのは、自分だけであってほしいと。
身勝手なわがまま、自己中心的な独占欲は…
確かな願いとなって、彼女自身を振り回したのか。
「全部、俺のせいだったんだ」
「え……?」
「ううん、こっちの話。美依…ちょっと起きれる?」
「うん…」
美依を起き上がらせ、膝の上に座らせる。
そのまま美依と向き合いながら、俺は頬に流れる涙を指で拭い…
こつんと、額同士をくっつけた。