〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第86章 純愛イノセンス《後編》❀徳川家康❀
「……あれ?」
俺は美依の不自然な動きに、思わず目を凝らした。
視線の先にいた美依。
その小さな身体が、ぐらりと揺らいで…
そのまま、美依が川へと倒れ込んだ。
俺はびっくりして、急いで美依の元に駆け寄り…
慌てて、ぐいっとその華奢な身体を抱き上げた。
「美依っ?!」
見れば、美依は真っ赤な顔をしていて。
焦点の合わない目で俺を見上げて、ポツリと『家康さまぁ…』と呟いた。
「ちょっと、大丈夫?!」
「なんか、気持ち悪い……」
「こっち来て休んで、馬の所まで運ぶよ」
俺はそのまま美依を馬の休ませている木陰へと運ぶ。
顔は赤いし、身体は熱い。
これはどう見ても陽にやられた証拠だ。
そう言う時は水を飲んで、日陰で休むのが一番いい。
今日はいつもより日差しがきついから。
きっと炎天下ではしゃいだせいで、体内に熱が溜まってしまったのだろう。
美依に持ってきた水を飲ませ、俺の膝を枕にして寝かせる。
汗も拭いてやり、濡れた手拭いを額に乗せて、しばらく休ませていると…
美依が下から俺を見上げ、なんだか酷く申し訳なさそうに謝ってきた。
「家康さま、ごめんね……」
「暑い日は具合悪くなったら、すぐ言わなきゃだめ。はしゃぐのは構わないけど」
「はぁい……」
「倒れた時、怪我しなくて良かったよ」
膝の上の小さな頭を、ぽんと撫でる。
すると…
見る間に美依の瞳が潤んだのが解って。
俺が思わず目を見開くと、美依は少し視線を外しながら、ポツリポツリと言葉を紡いできた。
「家康さまは…好きな人と両想いなんだね」
「え?」
「幸せの先を見る相手がいるんでしょう?」
「まぁ…そうだね」
「……いいな、その人」
(え……?)
その言葉に面食らう。
膝の上で横たわる、幼い美依。
でも……
その顔は『女』の顔だった。
頬を赤く染め、再度視線が合ってみれば…
瞳の奥に濃い熱を孕ませた、大人びた表情の美依がそこには居た。