〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第86章 純愛イノセンス《後編》❀徳川家康❀
「わぁ…綺麗な小川……!」
小さな川辺の側にある木の所で馬を止めてやる。
すると馬の上から、美依が小さく声を上げた。
やはり夏は水辺が涼しいかと思い、城下からかなり離れた山の方までやってきた。
小川がさらさらと音を立てて流れながら、夏の暑い日差しを受けて、光って見える。
多分魚も居るだろうし…
川の周りには綺麗な花も咲いている。
ここなら涼しいし、美依も喜ぶだろう。
「じゃあ、ゆっくり降ろすよ」
「う、うん……」
先に馬から降り、美依に向かって腕を伸ばした。
そのまま美依の脇腹辺りを掴み、力を掛ければ美依も腕を伸ばしてきて、俺の肩を掴む。
ふわりと抱き上げ、地に足を降ろしてやると…
美依は真っ赤な顔をして俯き、さっと身体を離してしまった。
……なんだこれ。
意識的に避けられたような気がするんだが。
「……ねぇ」
「は、はい?」
「今朝から様子がおかしいけど、どうしたの?全然話さないし…」
「……っ」
俺が問いかけても、美依は答えない。
視線を下に向けたまま、目も合わせない。
なんだろう、嫌がるような事でもしてしまっただろうか?
せっかく、今日の逢瀬はご褒美なのに。
俺の気持ちを軽くしてくれた…お礼なのに。
(……まぁ、微妙な年頃だしな、十二って)
昨夜、抱き締めあって眠って。
これまでの二日間とは決定的に違う空気が、二人の間に流れていたのは事実だった。
俺はどこか、この子に惹かれ始めていたし。
恋愛とか、そーゆー感情とは少し違うかもしれないが。
……美依は同じかは知らないけどね。
「言いたくないなら別にいいけど」
俺がぽんっと、その小さな頭を撫でると、美依は若干上目遣いで見上げてきた。
なんだ、その可愛い顔は。
頬を染め、困ったように口をへの字にして…
なんだろう、女っぽく見えるな。
そう思って、頭にある手を滑らせ、髪を指に絡ませるようにして、軽く梳く。
すると美依はびくっと身体を震わせ…
一気に身体を引き離すと、一目散に川の方に走って行ってしまった。