〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第86章 純愛イノセンス《後編》❀徳川家康❀
「今日は一段といい天気だね、美依」
「う、うん……」
「喉乾いたら、直ぐに言って」
「わ、解った……」
次の日は、雲ひとつない快晴だった。
俺と美依はその日、約束した通り一つの馬に乗り、ある場所を目指して草原の中を駆けていた。
俺の前に美依が乗り、俺が手網を握る。
当然の事ながら、俺が小さな美依を抱え込むような形になっている訳だけど…
(なんか…美依、今日様子が変だな)
肝心の美依の様子がどこかおかしい。
あんなに人懐っこくしていたのに、今日は妙によそよそしいし、会話も続かない。
昨夜までは美依の方から、ぽんぽん話しかけてきて、褥にまで潜り込んできたというのに…
俺は何かまずい事をしただろうか?
それとも、どこか具合が悪いのか…
「美依、もっと身体を俺に預けて」
「わっ……!」
俺が片手で細い腰をぐいっと引き寄せると、美依は強ばった身体を余計に固くさせた。
まるで触れるのを嫌がっているように、やたらと身体を離そうとしてくるので…
俺はさらに力を入れて自分の方にもたれ掛けさせた。
「きちんと身体を付かないと危ないよ」
「あ、ご、ごめんなさい…」
「もしかして、陽にやられた?」
「……っ」
腰にある手を持ち上げ、今度は美依の額と頬に順番に触れる。
多少は熱いが、汗はかいているし…
そこまで具合悪い様子でもなさそうだ。
すると、美依はされるがままになりながら俯き、小さな声でぽつりぽつりと話し出した。
「ねぇ、家康さま…」
「なに」
「もし、私が……さ」
「……うん」
「えぇと…やっぱり何でもない」
「そう」
(……会話、終了したな)
やっと美依から話し始めたかと思いきや、それはあっさりと途切れ、無言の時間が流れる。
なんか気まずいな、これ。
俺自身、話を振るのが上手い方ではないし…
美依の様子も変だし。
結局、その後は無言のまま馬を走らせた。
美依は若干俯いたまま、やはり身体を固くさせたままで…
理由も解らないまま、昼前には目的地に到着してしまった。