〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第84章 純愛イノセンス《前編》❀徳川家康❀
「こんなに星があるなら叶いそうだなぁ」
「え……?」
「さっきもね、こうしてお願いしてたの。今年は短冊が書けなかったから」
「何か願いたい事があるの?」
俺が尋ねると、美依は小さく俯き…
少し遠慮がちに、少し恥ずかしそうに。
その可愛らしい願いを口にした。
「早く家康との子供が出来ますようにって」
(え……)
その言葉に、俺は思わず目を見開いて美依を見た。
美依と夫婦になって、早一年。
その間、俺は数え切れないほど美依を抱いてきたけれど…
俺達の間に、まだ子は授かっていなかった。
俺は別に焦ってはいなかったし…
むしろまだ要らないとさえ思っていた。
それは、今は美依が一番大事で、子が出来たとしても、美依以上に愛せるかは解らないから。
俺はまだ、子供なのかもしれない。
親になる自覚なんて、まだ芽生えそうにないから…
────でも、この子は違うのかも
早く子を授かりたいと。
それは俺達二人の関係から、一歩踏み出したいと、そう思っているのかもしれない。
「子供…欲しいの?美依」
「うん…」
「焦る必要はないんじゃない、出来る時は自然にそうなるんだし」
「うん、でも…」
すると、美依は俯いたまま、ぎゅっとこぶしを握って。
今度は少し翳りを帯びた、そんな声色になって俺に言ってきた。
「家臣の方達から、最近よく言われるの。後継ぎをお願いしますって…私、こうして徳川に嫁いだからには、そうする事が一番の役目だと思っているから」
「美依…」
「だから、早い方がいいと思う」
それで星に願うなんて事をしてたのか。
美依の思いを知り、思わず心が疼く。
『徳川に嫁いだからには、それが一番の役目』
そんな風に気張る必要ないのに。
俺は美依が愛しくて、この子以上に愛せる存在なんて考えられない。
今は美依を全力で愛したいから。
二人の間に別の存在が入るなんて、俺はきっと戸惑いしかないとさえ思う。
だから…焦る必要はない。
それは美依の意見を聞いたところで、やっぱり変わらないなとそう思った。