〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第83章 琥珀に滲んだ秘密の想い《後編》❀明智光秀❀
「美依、どうしたの?」
「あのね、お母さん…聞いて」
「うん、なあに」
「私、光秀さんと結婚するの。そして…すごく遠くに行くの。もう、お母さんには会えなくなる」
私が言葉を震わせながら、そう言うと。
お母さんは『えっ…』と小さく声を放ち、腕を解いてゆっくり振り返った。
そして、驚いたような瞳で私を見つめる。
その顔は…今まで見た事ないような、寂しそうな顔だった。
「遠くって、外国?」
「うん…そんなとこ、かな」
「でも、たまには帰ってこられるんでしょ?」
「…きっと、もう一生帰れない。お母さんには、もう会えなくなるよ」
「そんな……!」
すると、お母さんは口を一文字に結び。
ふるふると唇を震わせ、やがて…
とても厳しい口調で、キッパリと言い放った。
「ダメよ、そんな結婚なら認められない」
「お母さんっ……!」
「私がどんな思いであなたを育ててきたと?大事な大事な娘を、いきなり現れた人に取られて、もう一生帰ってきませんなんて、そんな話が通るとでも思うの?それとも、光秀さんが帰るなとでも言ってるの?」
「違うよっ…!」
「なら何故帰って来ないなんて言うの」
「……っ」
「答えられないなら、そんな結婚はだめ。お母さんは許す気はないからね」
そう言って、お母さんは顔を背けた。
こんなの…こんなの解っていたはずじゃない。
光秀さんを連れて行ったところで、結婚の承諾を得るなんて…
そんな事は無理な事だったのだ。
嫁いで一生帰って来ないなんて、そんな事を許す親がいるのか。
(お母さんを傷つけるの、解ってたのに)
それでも、たった一人のお母さんだから。
許して欲しいなんて…甘かったのかな。
私が思わず、俯くと。
ぽんっと、後ろから肩に手を置かれたのが解った。
ゆっくり振り向けば、光秀さんが優しく笑っていて。
小さく頷くと、光秀さんは私の横に並んだ。
そして──……
「えっ…光秀、さんっ……?!」
光秀さんは、その場で座り込んだ。
正座をして、両手を前につく。
そんな姿に気がついたお母さんも、びっくりした様子で光秀さんを見下ろし…
光秀さんはそのままの状態でお母さんを見上げながら、ゆっくり言葉を紡ぎ始めた。