第18章 ハピファミ!18
「どれくらい切る?」
「うーん……小学生の時くらいバッサリいきたいです」
「わかった、任せて!……でも、前髪失敗したらごめんね」
「真っすぐじゃなければ大丈夫です。パッツンでなければ、セットでなんとかなります」
「わぁ、プレッシャーだなぁ…真っすぐも可愛いと思うよ」
「勘弁してください」
クスクス笑うまゆらちゃんに、まぁもしパッツンになってもセットでどうにかしますよ。そう返事をして、後はおとなしく椅子に座って身を任せた。
霧吹きでかかる水飛沫がひんやりと心地いい。
続いて、髪をクシで丁寧に梳かれる感覚。
シャキリ…シャキリ…言葉のわりに手際よく切っていくハサミの音だけが部屋の中に響いて。
ほんのり感じる眠気に従って瞼を下ろすと、うとうとしながらたまに聞こえるまゆらちゃんの声に耳を澄ませた。
「…よし、できた。わたるちゃん、こんな感じだけど…どうかな?」
まゆらちゃんが見せてくれた鏡の中には、小学生のワタシをそのまま成長させた姿が映っていた。
右を見て、左を見て、前髪を指先でちょいと弄って確認すると、まゆらちゃんへ笑みを向ける。
「うん、すごく上手ですね。ありがとうございます、まゆらちゃん」
「よかった!ふふっ……なんか、その髪型見てると思い出すね」
「え?…なにをですか」
ふと、まゆらちゃんが含み笑いをしながらこちらを見る。
なんのことだろうと首を傾げて先を促せば、短くなったワタシの髪を白くて細い指先がふんわり撫でて。
「『図書館の美少年』」
「やめてください、まゆらちゃん」
お願いだから、忘れて欲しい。
あんな恥ずかしい呼び名と噂話まるっと全部。
小学生の間ずっと隠し続けてきたその正体は、中学生になってできたまゆらちゃんの友人の口からあっさりバラされた。
恥ずかしすぎる思い出と居た堪れなさに、目と額を手で押さえると。
軽やかな笑い声をこぼしながら、まゆらちゃんがワタシの手を取って顔を覗き込んでくる。