第17章 ハピファミ!17
『私』は知っていた。
まゆらちゃんを、うづさんを、岡内くんを、エナさんを、キワコさんを。
それから、『ワタシ』の未来の甥っ子になるであろう、なるとくんを。
「……なんだ、コレ?」
呆然と目を見開いたワタシの視線の先には、しっかりと抱き合う二人の姿。
そして、少し離れた場所から、その二人を切なそうに見つめる影が二つ。
ゆらりと揺れた大きな影は、岡内くん。
少し小さな影は、まだ見ぬなるとくん。
「ほんとに、なんだよ、コレ…………っなんなんだよ!!」
叫んだ瞬間、あるかもわからない地面が崩れた。
足が踏み場をなくし、体が一気に傾いて。
落ちる!そう思って、ハッと目が明いた。
「わたるちゃんっ、大丈夫!?」
「…………まゆら、ちゃん?」
「よかった!呼んでも起きないから、心配したんだよ」
「ワタシ、は……」
そうか、今のは夢。
夢、だった…………………………ほんとに?
目をぱちぱち瞬かせると、ほろっと何かがこぼれ落ちた。
安心したくて、まゆらちゃんの顔をよく見ようとするのに、視界はどんどん滲んでぼやけてしまう。
「わたるちゃん、どうして泣いてるの?」
「まゆらっ」
こわい、コワイ、怖い、助けてっ。
救いを求めて、すぐ前にいるまゆらちゃんに腕を伸ばす。
同じようで違う、女性らしい華奢な体を腕の中に閉じ込め、しがみつくように縋るように、強く強く抱きしめる。
「イ、タ……わたるちゃん?」
まゆらちゃんの体が軋み、痛がっていることはわかったのに、力を緩めることができない。
私の知っていた世界に、ワタシはいなかった。
未来は不確定だ。でも、もしもあの通りに進むのが本来あるべき未来だとしたら?
あの世界でのまゆらちゃんは、うづさんと結婚して、可愛いなるとくんを産んで育てて。
問題や悩みはいろいろあったけど、それでも、とても幸せそうに笑っていた。
「わたるちゃん、なにかあった?」
甘い眼差し、優しい声、温かな体、やわらかい笑み。
ワタシに向けられている、ゆるぎない愛情。
ああ、コレは、あの男のものなのか。
そしてあの男の全ても、まゆらちゃんのモノだったのか。
ワタシのものなんて、何も、なにひとつ、無かったんだ。