第17章 ハピファミ!17
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ワタシは一人だった。
自分以外は何もない暗い空間にポツンと佇みながら、これは夢の世界だとぼんやり理解する。
不思議と怖さは感じない。
「わたる」
ふと聞こえた、自分を呼ぶ声。
誰だろうと顔を向ければ、いつもと同じくゴシックとパンクを織り交ぜたような服装のうづさんが歩いてくる。
当然のように待っていると、うづさんはそのまま横をスッと通り過ぎていってしまった。
まるで知らない人のよう……いや、ワタシの存在すら知らないように、視線は先を見据えたままチラリともこちらに動きはしない。
少し驚きながらその背中を目で追っていると、やがて現れた人影に片手を上げながら近づいていき。
うづさんは珍しくその誰かに向かって、やわらかく微笑んでみせた。
「え…」
それは、大切で大切で仕方のない、世界の半分。
同じようで全く違う、魂の片割れ。
ワタシがこの世で一番愛している、大好きな、ダイスキな……
「…………まゆらちゃん」
うづさんの大きな手が、まゆらちゃんの髪を、頬を、優しい仕草でなでる。
照れたように、嬉しそうに笑い、とろけるような瞳でうづさんを見つめるまゆらちゃん。
―――これはいったい、なんだろう?
ワタシに気づくことなく笑い合い、寄り添う二人の姿はまるで。
「っ、痛った……!」
急にズキッと鋭い痛みが、こめかみの上辺りに走った。
反射的に目をつむり、頭を守るように手でおさえる。
―――ズキン、ズキン、ズキン
―――いたい、イタイ、痛い
閉じた瞼の裏がチカチカと光って、それから、見覚えのある絵と文字が浮かんできた。
まゆら、うずしお、岡内、エナ、キワコ、なると……次から次へと目まぐるしく、情報が濁流のように流れ込んでくる。
―――ああ、これは、そうか。
『わたる』になる前の、『夢名字夢名前』の、記憶だ。
「あははっ…」
渇いた笑いがこぼれる。