第16章 ハピファミ!16
つい口元がニヤけてしまったワタシの顔を見たうづさんが「気色悪ぃぞ、オマエ」なんて言いながら、ほとんど無い眉を思いきり顰めたそのとき……プルルル……部屋の電話が鳴った。
互いに視線を交えること、わずか数秒。
行動に移したのはうづさんで、鳴り続けている電話の受話器を手に取るといつものように気の抜けた声で「はぁーい、変態岡内の電話ですけどー?」という実に迷惑な台詞を口に出した。
岡内くんはこうやって、普段から迷惑をかけられているのかと思うと実に不憫でならない。
何故、居候までさせてやっているのか本気で謎に思う。
「……アンタと話すことなんかねぇよっ、二度とかけてくんな!」
「……っ?」
いつの間にか、自分の世界に浸ってしまっていたらしい。
突然聞こえた、うづさんの怒鳴り声と受話器を叩きつける音に驚いた体が揺れて、ハッと意識が引き戻された。
今のは一体……岡内くんへの電話ではなかったのか?
どうして、うづさんはこれほどまでに強く怒鳴ったのだろう?
単純に浮かんだ疑問を言葉にしようとして、うづさんを見た瞬間。
自分の目を疑った。
「っ…………クソ……」
「……うづ、さん?」
とても悲痛な表情へと顔を歪め、歯を食いしばって俯いている。
一瞬、泣いているのかと思った。
いや、泣いている……涙は流れていないのに、漠然とそう感じた。
苦しくて痛くて、悲しくて仕方ないのだと全身で訴えているようなその姿は意外で、意外すぎて。
普段の彼からは、まるで想像もつかないものだったけれど。
何故か。不思議と。
それはワタシの胸にストンと落ちてはまり、当たり前のようにおさまってしまった。
名前を呼んで近づくと、小さく掠れた声で「帰れ」という言葉が聞こえた。
本当はここで素直に帰るべきだったのかもしれないし、いつもならそうしていただろう。
でも、できなかった。
最低最悪の初対面に、周りや友人からの悪評も高く、殴って蹴って投げ飛ばしたこともあるこのバカを、うずしおのことを。
ワタシの心は「愛しい」と感じてしまったようだ。